どの企業も多くの人々が働いている以上、問題を避けることはできません。そのため重要なことは「問題をいかに避けるか」ということではなく、むしろ「問題をいかに効果的に解決するか」「いかに問題の再発を防ぐか」 ということになります。また企業間の競争が激しく、市場の変化が速い現代は、解決策の良し悪しだけでなはく、「問題をどれだけ早く解決するか」ということが一層求められてきています。
比較的狭い範囲の問題なら、ツールを使うことで解決策の質の向上と問題解決の迅速化の両方が図れるかもしれません。しかし局所的な問題を場当たり的にツールを使って解決したとしても、全体としての整合性が大きく損なわれる可能性があります。
組織全体に横たわる大きな問題を解決するためには、問題解決のための枠組み(フレームワーク)が必要になってきます。
問題解決のフレームワークとは、手順に沿って大きな問題を小さな問題に分割して、整合性を保ちながら分割した小さな問題をそれぞれ最適なツールによって解決し、さらにその結果を組み立てることで最終的に大きな問題全体を解決するような方法論です。フレームワークとはすなわち、大きな問題を解決するための枠組みであり、手順であり、方法論であり、それらすべてを含めた考え方です。
そのため、問題解決のフレームは「システム思考」であるとか、「科学的思考」のプロセスであると言われます。それは問題解決のフレームワークが
- 問題を観察し
- それを分析または抽象化して問題を定義し
- それを基に設定した仮定を実験によって検証し
- 検証結果を実際に応用する
というプロセスを繰り返すことで問題を解決するためです。
「システム思考」とか「科学的思考」という意味では、問題解決のフレームワークは解決する問題の大きさに従って、大きなフレームワークと小さなフレームワークに分かれるかもしれません。
大きなフレームワークは全体を最適化しながら大きな問題を解決します。その代表的なものにリーン、シックスシグマ、DFSSなどがあります。
小さなフレームワークは局所的な部分を最適化をしながら小さな問題を解決します。QFDやDOEなど、各種のツール類がそれに当たります。
しかしここではシックスシグマなどの大きなフレームワークを問題解決のフレームワークと呼び、ツール類は単にツールと呼ぶことにします。
大きな問題解決のフレームワークとして、以下のような代表的なフレームワークがあります。
- リーン •シックスシグマ
- DFSS (Design for Six Sigma)
- リーン・スタートアップ
- 8D、など
どのフレームワークも、問題解決のプロセスをいくつかの小さなステップに区切り、ステップごとに定められた目的に沿って、順序立てて問題を解決していきます。例えばリーンシックスシグマの場合、それぞれのステップの目的は以下のようなものです。
DMAIC Steps | Purpose |
---|---|
定義(Define) | 顧客要求を集める 解決する問題とその範囲を定義する 利害関係者を把握する 問題解決を測定するKPI(Key Performance Index)を定める、など |
測定(Measure) | 顧客の要望を詳細に把握する プロセスや製品、サービスにおける現状の問題点を把握する 問題点を数値として測定する 問題点に優先順位をつける、など |
分析(Analyze) | 問題の根本原因を分析し、特定する 問題解決の数値目標を設定する、など |
改善(Improve) | 改善策を洗い出し、新しいプロセス(製品)を検討する 新しいプロセス(製品)と現状のプロセス(製品)とのギャップを把握する 問題解決策を導入する 導入した問題解決策の効果を測定する、など |
定着(Control) | 数値目標と照らし合わせて問題解決の成果を確認する 問題解決策が定着するよう方策を講じる、など |
私たちは問題起こると、思い付いた解決策にいきなり飛びついてしまいがちです。しかしフレームワークによる問題解決はそのようなことはしません。なぜなら、限られた時間やコストの中で最大限の成果が得られるよう、十分な測定や分析を計画的に行うからです。フレームワークによる問題解決を繰り返すことで私たちの「システム思考」が訓練されて、問題を解決する時間も早くなり、その質も向上していきます。
問題解決の大きなフレームワークは、各ステップを通して、大きな問題から小さな問題に分割していきます。そして分割された小さな問題は最適なツールを使って解決していきます。それぞれのツールも問題解決の手順が定められているので、ツールは小さな問題解決のフレームワークと言えます。
例えば上図はリーンシックスシグマの使われる代表的なツールですが、ツール類を自由に操ることもフレームワークを使った問題解決の醍醐味の一つです。
リーンシックスシグマに代表される問題解決のフレームワークは特定の問題の解決に留まらず、企業における財務の改善、顧客満足の向上、そして組織や人材の強化を究極の目的としています。また競合他社よりも少しでも早くフレームワークを回すことによって、市場シェアの拡大や企業の成長が期待できます。
問題解決のフレームワークには様々なタイプがあります。製品の品質を重視したもの、プロセス(工程)を重視したもの、新製品や新しいプロセスの開発を重視したもの、規格を重視したものなど、様々です。上図(www.essence-leadership.com を参照し、変更を加えたもの)はそれら様々なフレームワークの変遷を大まかに記しています。
変化の激しい環境の中で企業が抱える問題が複雑化するにつれ、問題解決の方法も増えています。そのためフレームワークを使った問題解決では、問題の内容に応じてどのフレームワークを選ぶかが重要です。しかし今ではリーンやシックスシグマを使った問題解決が主流になっています。ISO(International Organization for Standardization: 国際標準化機構)が2011年にシックスシグマをプロセス改善の手法として採用したことからもそれが伺えます。
それぞれのフレーワークにはどのような違いがあるのでしょうか。ここではシックスシグマ、リーン、DFSSについて比べます。
リーンは既存のプロセスを継続的に改善するために使います。それは健康を維持・促進するための毎日の運動だったり、無駄な贅肉を落としたり、悪い習慣をなくすといった日々の健康な体作りに例えられるかもしれません。リーンがトヨタ生産方式を基本にして発達した手法であることから、リーンは東洋医学的な問題解決方法と言えるかもしれません。
健康な体を目指していたとしても、突然怪我をしてしまったり、また病気であることが判明してしまった場合は、西洋医学を使って緊急に怪我や病気に対処することが必要です。シックスシグマは既存のプロセスや製品の中で発見された問題を緊急に解決するためのフレームワークとして使われるため、西洋医学的な問題解決方法と言えるかもしれません。
私たちがいつも何か新しいことに興味を持ちそれに挑戦してみたいと思うように、企業も成長を目指して新しい製品や新しいサービスを開発します。新しいことに挑戦する時に気になるのがリスクであり、ROI(投資に対する期待する成果)です。期待する成果を最大限にするために、リスクを最小限に抑えながら、最適な意思決定・資源配分をするためのフレームワークがDFSS(Design for Six Sigma)です。
私たちが健康な体作りや怪我への対処、新しいことへの挑戦を日々続けているように、企業もリーンやシックスシグマ、DFSSを価値連鎖(バリューストリーム)の中で日々使い続ける必要があります。健全な企業を作るためには、問題解決のフレームワークが不可欠です。