導入方法

問題解決のためのフレームワークを導入するには、その目的と範囲に応じて二通りの方法があります。​

​個人でフレームワークを導入する場合​

個人の場合は、自身が抱える業務プロセスを向上させるため、または自身が抱える問題を解決するために、最も効率的で確実な方法としてフレームワークによる問題解決方法を学び、理解し、応用させていきます。​

また個人で始める場合は、問題解決のフレームワークはいつでも、誰でも、どこからでも始められます。もし今抱えている業務上の小さな問題を解決をするために何かのツールを使っていたとしたら、もうすでにフレームワークによる問題解決が始まっています(ツールは小さな問題解決のフレームワークです)。後は大きなフレームワークの全体像を理解し、ツール類の連携と応用を深めていくだけです。フレームワークによる問題解決を繰り返せば繰り返すほど、その理解が深まり、フレームワークを使う理由が分かってきます。​

フレームワークによる問題解決方法を良い見本としてチーム員に見せることもできます。そうすることによって、チーム員の中にフレームワークに共感する人がきっと出てくるはずです。フレームワークによる問題解決の仲間が広がってくればくるほど、もっと効果的に組織に貢献することができるようになるでしょう。​

企業が組織的にフレームワークを導入する場合​

企業が組織的にフレームワークを導入すると、更なる効果が望めます。全従業員が会社の目標やビジョンを共有したり、その目標やビジョンに沿ってもっと効率的に会社に貢献できるようになります。また従業員同士が最善の方法を共有することで、もっと早く効果的に業務プロセスを改善したり問題を解決することができるようになります。全従業員が滞りなく一緒に働くことができるようになることが、フレームワークを導入した時の最大の強みになります。​

リーンシックスシグマに代表されるフレームワークは、組織の大きさを問わず、企業が無理なく一からフレームワークが導入できるよう、様々な工夫がなされています。​

個人がフレームワークを導入する価値は、「科学的な思考方法を使って問題を解決する事」を通してすぐに実感できると思います。​

では、企業が組織としてフレームワークを導入する価値とはなんでしょうか。​

[組織に新しい変化をもたらすことができる]
フレームワークを導入することによって、新しい問題解決方法や新しいツール、新しい役割が導入されるため、組織に新しい変化をもたらすことができます。従来のやり方を続けるだけの停滞する組織から、成長を続ける新しい組織に変化するために、フレームワークは導入する価値があります。​

[経営戦略と、それを実現する方法を整合させることができる]
経営戦略とは別に各組織が独自に行動し、組織全体の統率が取れていないようであれば、各組織の整合性を高めるためにもフレームワークを導入する価値があります。

[業務規範を高める原動力になる]
フレームワークを導入することによって、経営戦略を実現するために最適な役割を与えられたチーム員が、プロジェクトを中で最適な時に最適なツールを使うことができ、それが業務規範を高める原動力ともなります。​

[従業員のリーダーシップを高める原動力となる]
リーンシックスシグマに代表されるフレームワークは、チャンピオン、マスターブラックベルト、ブラックベルト、グリーンベルトなどの役割を定義します。チームの中で新たな役割と責任を果たすため、またはそれを得るために、フレームワークの導入は従業員のリーダーシップを高める原動力ともなります。​

[確立された方法論を経営や業務に組み込むことができる]
組織全体でフレームワークによる問題解決を繰り返すことで、問題解決のスピードと質が高まり、確立された最善の方法論を経営や業務の中に組み込むことができます。​

次の図は、組織がフレームワークを導入し、組織内に実装した例を簡単に示しています。​

まず組織は外部環境と内部環境に応じて経営目標を立て、さらに運営目標や部門計画まで細分化していきます。そして各部門では、部門計画を達成するために様々なプロジェクトが認識されます。基本的にここまでは現在行われている方法と同じです。もし違いがあるとすれば、すべてのプロジェクトが経営目標、運営目標、そして部門計画と整合性を保ち、目に見える形で管理するために、「方針管理」と呼ばれる方法で戦略の実装(Strategy Deployment)が行われることです。その際、Xマトリックやボーリング・チャートなどのツールが用いられます。​

次に認識された様々なプロジェクトは、各部門や組織ごとの価値連鎖(バリューストリーム)の中に割り当てられます。図中の価値連鎖の中で表示されている数字は、価値連鎖の各ステップごとに割り当てられたプロジェクトの数(例)です。価値連鎖(バリューストリーム)の定義や、その中での問題の発見(つまりプロジェクトの認識)を行うために、ここでも様々なツールが使われます。​

しかし多くの場合、組織には様々な制約(費用や人的資源など)があるため、すべてのプロジェクトを同時に実施することは不可能です。費用対効果や制約条件、成功確率を考慮して、もっとも効果的に部門計画が達成できると考えられる順序で、プロジェクトに優先順位が付けられます。優先順位の決定にもツールが使われます。そしてその優先順位に従ってプロジェクトが実施されていきます。​

それぞれのプロジェクトには違った特性があります。その特性に従って最適の問題解決フレームワークを選択します。あるプロジェクトはシックスシグマを使って、そしてあるプロジェクトはDFSSを使って、またあるプロジェクトはリーンを使って問題を解決する、という具合です。チャンピオン、マスターブラックベルト、ブラックベルト、グリーンベルトといったフレームワークのリーダー達は、プロジェクトの成功確率を高めるために、チーム員を支えます。​

最適なフレームワークを最適な時に使うことで、部門計画達成の成功確率が上がります。また個々のプロジェクトが経営計画まで一貫した整合性を保っているので、限られた資源(予算や人的資源)を効果的に活用して、経営目標達成の成功確率が上げることができます。そして企業の内部環境(または経営指標)が改善させることから、競争力のある企業へと成長していきます。​

このフレームワークの「善循環」を他社よりも少しでも早く、少しでも効果的に回せた企業だけが、市場での競争に勝てます。​

組織にフレームワークを導入することは大きな変革を伴います。人は大きな変革を好まない傾向があるので、フレームワークの導入に際し、従業員の精神的な抵抗があるかもしれません。それを克服するために、ジョン・コッターの「組織変革のための 8 段階プロセス」を使います。​

コッターの変革のための 段階プロセス

  • Step 1: 危機意識を高める (Create urgency)​
  • Step 2: 変革のための連帯チームを築く (Form a powerful coalition)​
  • Step 3: ビジョンを生み出す (Create a vision for change)​
  • Step 4: 変革のためのビジョンを周知徹底する (Communicate the vision)​
  • Step 5: 自発的な行動を促す (Empower action)​
  • Step 6: 短期的成果を実現する (Create quick wins)​
  • Step 7: 成果を活かしてさらなる変革を進める (Build on the change)​
  • Step 8: 新しい方法を定着させる (Make it stick)​

ステップ0. 転換点​

売上の減少、品質の低下、サービスの低下など、企業や組織の存在を揺るがすような大きな問題が、変革のための転換点となることがあります。また現状のやり方では将来の成長が望めないと知ったとき、それが変革のための転換点となることがあります。「まったく新しいやり方を導入しない限り現状の問題を解決できない」と、組織のトップが認識した時が、組織変革、つまりフレームワーク導入へ向かう転換点です。​

ステップ1. 危機意識を高める​

組織のトップが組織変革への転換点を認識したら、「今変革を行わなければ、近い将来この組織は無くなってしまうだろう」という強い危機意識を、組織のリーダー達と一緒に高めることが必要です。フレームワークの導入は、リーダー達が危機意識を高め、それを共有できるかどうかに掛かっています。​

もしかしたら危機意識の高め共有することは、自己保身(現状維持)を目的とする管理職や組織にとっては難しいことかもしれません。それでも外部(競合他社)からの脅威や達成困難な経営目標、社内の問題などから危機意識はきっと高められ、共有できるはずです。変革こそが危機をさける最善の方法だと、リーダー自らが決心する必要があります。​

ステップ2. 変革のための連帯チームを築く​

危機意識が十分高まった後は、強い権限を持ち、リーダーシップを発揮できる適切な人材によって連携チームを築きます。個人プレーヤーではなく、チーム・リーダーとして働ける能力を持った人達が必要です。理想としては、社長や副社長が連携チームに加わってくれれば最高です。​

リーンシックスシグマなどのフレームワーク導入組織にはチャンピオンという役割がありますが、連携チームのメンバーはこのチャンピオンに該当します。組織をリーンシックスシグマに導くには、​

  • 製品開発・技術部門​
  • 製造部門​
  • 品質管理部門​
  • 経営部門​
  • 人事部門​

それぞれにチャンピオン(連携チームメンバー)を置く必要があります。チャンピオンの教育を行うのもこの時期です。​

ステップ3. ビジョンを生み出す​

連携チームメンバーは明確で簡潔な、「フレームワークを導入するビジョン」を組織全体に示します。組織にとってフレームワークとは何か、フレームワークを導入する目的と利点は何か、そして何よりも大切なのはフレームワークを導入することによって従業員の問題解決のやり方がどのように変わるのかを明確にビジョンとして示します。​

ステップ4. 変革のためのビジョンを周知徹底する​

フレームワークを導入するためのビジョンを示した後は、そのビジョンを組織に浸透させます。そのためにはコミュニケーション技術を駆使して、①簡潔なメッセージを、②あらゆる方法を使って、③何度も何度も繰り返し行うことが必要です。組織のトップや連帯チームが繰り返し繰り返し同じメッセージ(ビジョン)を送り続けて、ようやく組織が少しずつ動きだします。​

ステップ5. 自発的な行動を促す​

ビジョンが共有され始めると、自身が抱える問題を解決するために、個々の従業員が自発的な行動を開始します。組織のトップや連帯チームはそれを促し、自発的な行動を補佐します。ブラックベルトやグリーンベルトなど、フレームワークによる問題解決の原動力となるリーダーを育成するためのトレーニングを開始するのはこの時です。​

ステップ6. 短期的成果を実現する​

ブラックベルトやグリーンベルトがチームをリードしながらフレームワークを使った問題解決プロジェクトを開始し、早い段階で小さな成功を積み重ねていきます。この成功体験を組織全体で共有することが変革への近道であり、王道です。​

ステップ7. 成果を活かしてさらなる変革を進める​

組織が新しいフレームワークによる問題解決にも慣れて、成功体験を重ね始めたら、その適用範囲を徐々に広めていきます。違う業務にフレームワークを応用してみたり、リーンシックスシグマだけではなく、DFSS を使って製品開発を行ってみたり、リーンを使って業務から無駄を省いてみたり、色々なことに挑戦します。​

ステップ8. 新しい方法を定着させる​

フレームワークの導入に成功した後は、いかにフレームワークを定着させるか、言い換えれば、どのようにして今後 10 年 20 年とフレームワークを継続させ発展させるかを考える必要があります。例えばブラックベルトやグリーンベルトをどのように組織内に配置するかとか、外部コンサルタントに頼るのでななく、社内でベルト認定制度などを設けたりすることを考える必要があります。​

フレームワークはその導入よりも、運営と維持・発展の方が遥かに難しいものです。多くの企業がフレームワークを導入したものの、運営と維持に失敗してしまいました。本当の組織力はフレームワーク導入後に試されるようです。他社よりも少しでも上手くフレームワークを運営・維持することが、企業の発展に繋がっていきます。​