ジャーナリスト嶌信彦氏の記事「地味な検査をないがしろにするな」を読んで共感することがあったので、リーンシックスシグマの視点から僕の意見を付け加えてみたいと思います。
この記事は最近連発する大企業の不祥事について、ジャーナリストの嶌信彦氏が書いたものです。リンク元にもあるように、以下のポイントについて記事は書かれてあります。
- 日本の製造業で次々と不祥事が発生、モノ作り神話崩壊
- 技術などの進歩に見合った検査体制にせず、放置していたことが一因
- 検査規準ややり方を一から見直す勇気が必要
全体的に嶌信彦氏の記事の内容に賛成しますが、結論については僕の意見は少し異なります。
各社の言い分は、製造されたものが基準と違うからといって安全性に問題があるわけではなかったし、いわば念には念を入れて細かい基準をある意味作りすぎた結果だった。
事も有ろうに、大企業が統計的な計算もしないで基準を作っていたのでしょうか。①どのくらいの確率で不良品が発生し、②どのくらいの確率で不良品を検査で検出することができ、③どのくらいの不良品の確率なら経営的に許容でき、④不良品の確率と検査費用の割合を経営的にどのあたりに置くかなど、大企業なのだから充分なデータもあり、統計的にも、経営的にも判断できると思うのですが、そういうことはしていなかったのでしょうか。もし基準が「念のため」で作られていたのだとすると、ちょっと怖いような気がします。
データをもとに簡単な許容分析を行えば、上記の様な情報が得られます。どんなに厳しい検査基準(上限値/下限値)を設定しても、必ず一定の割合で不良品がでます、例えば、0.01% の割合で不良品が発生するとか。
不良品をゼロにするのは 100% 不可能ですし、そのための検査費用は膨大なものになるでしょう。不良品をゼロにしようと努力するよりも、むしろ不良品の確率を把握し、それが経営的にバランスの取れたものかどうか判断した方が現実的です。
不良品の割合は検査基準(上限値/下限値)によって左右されます。そのため
良品のから得られる利益 >> 不良品のコスト(検査費用や回収・補償など)
となるような検査基準を作ればよいのではないでしょうか。
だとしたら、なぜそんな無用な細かな規準を作ったのか、と疑問を呈したくなる。安全を何重にも担保するため、必要以上に細かな規準を作っておくのが日本の製造業の体質となっているということなのだろうか。
日本の製造業の体質とも言えますが、本質的には日本的な「事なかれ主義」だと思います。
一般的に、検査基準を設定する製品の設計者はリスクを取りたがりません。そのため過剰な検査基準を設定する傾向があります。また一般的に、製品の設計者は不良品のリスクを確率として捉えることもしませんし、検査費用を考えることもありません。そのため過剰な検査基準を平気で設定します。それよりも、不良品が出ることに対して自分や自分の部署に責任が負わせれることを極端に恐れます。それがさらに検査基準を過剰にします。
もしかしたら責任を押し付け合う縦割り化された組織だったのかもしれません。現実離れした基準を作って責任逃れをし、その検査がちゃんとできないのは検査部門の責任だと。
検査員も殆んどいないのに20年も30年も“無用な”規準を保持していた企業もあったというからまさに外向けの信用づくりに利用していただけだったのだろう。
ある企業のトップは「技術や機械が発達してきたら、それに合わせて2、3年に一度は検査規準ややり方を一から見直す勇気も必要なんでしょうね」、と述懐していた。企業で一度、検査規準やマニュアルを作ると10年も20年も同じやり方を踏襲するケースが多いらしい。
「事なかれ主義」が蔓延し、責任の所在が曖昧な企業では、一旦検査基準を作ってしまうと、それを変更することはできません。しかも 20 年も 30 年も前のことになると、誰がどんな計算をもとに基準を作ったのか分かりませんし、もし基準値を緩めて問題が発生したことを考えると、だれもその責任を取ろうとはしないからです。
リーンシックスシグマを実践する企業ではこういう問題は殆どありません。検査基準値を見直し(もちろん統計的+経営的に)、検査コストの削減を目指すプロジェクトは常にありますし、そして検査コスト削減目標を達成し経営に貢献すれば、チームは経営者から認められるからです。
「技術や機械が発達してきたら、それに合わせて2、3年に一度は検査規準ややり方を一から見直す勇気も必要なんでしょうね」というのは、僕から見れば経営者の怠慢としか思えません。
研究開発や営業は花形職場だが、検査や点検の部署はなおざりにされやすい。最近の大手の不祥事の続発は、技術などの進歩に見合った検査体制までは見直さずに放置していたことが一因かもしれない。地味な仕事に光をあて、大事にすることも重要なのだ。
僕の結論は少し違います。検査基準を作るのは、検査部門ではなく、研究開発や製品開発部門です。検査部門は、製品開発部門が作った検査基準を使って検査するのが役割です。もし現実離れした検査基準があるのだとすれば、製品開発部門の方に非があります。
検査体制に問題があるとすれば、その問題を伝えようとしなかったことではないでしょうか。これは現場から管理職まで蔓延した「事なかれ主義」という根の深い問題のような気がします。
繰り返しになりますが、リーンシックスシグマを実践する企業ではこういう問題は殆どありません。なぜなら検査部門が統計的かつ経営的に検査コスト削減に成功すれば、検査部門が経営者から認められるというモチベーションが常に働いているからです。