エッセイ: ゼロ DPMO って本当?

先日、取引先のプリント基板メーカーの方が来社されました。その会社は弊社に電源装置(プリント基板として)を納品してくれています。その装置はそれほど数が出る製品ではないので、自社生産ではなく外注に任せているからです。来社されたその会社の部長さんは製造と品質管理を行っている方で、もっと仕事の量(取引)を増やして欲しいという趣旨のもと、色々な技術説明をして下さいました。

その部長さんが品質について説明されている時、「うちの製品の品質が高く、ゼロ DPMO(Defects Per Million Opportunities)です」と仰ったので、”おいおい、ゼロ DPMO なんてわけないだろう”と心の中で呟いてしまいました。

事実その製品に不良があった場合は、金額が安いことや、客先でのダウンタイムを極力減らす目的でその場で交換される場合が殆どで、詳細な不良データを取る前に破棄されています。不良データは外注先に届いていません。またその会社から納入していもらっている製品の台数は年間 2,000 台ほどです。ゼロ DPMO を言うにはサンプルサイズが少ないようです。しかも電源装置という多くの電子部品が組み込まれている製品なので、どんなに品質管理が優れていようと、ゼロ DPMO ということはないと思います。

”この外注先は品質管理であまり統計的手法を使っていないかもしれない。”というのが僕の率直な感想でした。

そんなことがあった矢先に弊社のブラックベルト氏が質問をしてきました。「ある装置の密閉度を調べた結果、データ分布が以下の図のようになり、すべてのサンプル値が客先が指定する値、つまり 60 以下だった。そのため客先にゼロ DPMO だと報告して良いか」というものでした。

”おいおい、ここでもゼロ DPMO か”と思いましたが、返事をする前に少しデータを調べてみることにしました。

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データは空気の漏れ具合を調べたもので、値が少ないほど密閉が高いことを示していました。そのため下限値が 0、上限値が 60 というのは分かります。確かに 17 を超えるサンプルは無いようです。ましてや 60 を超えるサンプルは絶対にないように思えます。

しかし正規分布ではないのに Z値やPPM(Parts Per Million)を求めても仕方が無いし、その証拠に PPM < LSL がとんでもない数になっていました(確かに PPM > USL はゼロですが)。

そこで次のようなステップでデータの分析を行ってみました。

  1. ヒストグラムの作成
  2. 回帰分析を使って分布(ヒストグラム)の数値モデルを作る
  3. 数値モデルを使って上限値を超える場合の確立を求める

1. ヒストグラムの作成

デフォルトの階級間隔を使って生データから直接ヒストグラムを作ると以下の図のようになってしまいました。柱データの凸凹が激しく、このまま回帰分析を行っても大きな誤差がでると思い、まず階級間隔を調整しました。

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階級間隔を 5 としたものが以下のグラフです。柱の高さの変化がスムーズになったので、このデータをもとに回帰分析を行うことにしました。

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2. 回帰分析を使って分布(ヒストグラム)の数値モデルを作る

柱の高さの変化が直線ではないので、非線形回帰分析を使ってみました。使ったモデルはログ・ロジスティック成長分布です。いくつかのパラメータを調整したところ、非線形回帰分析のS値も十分小さくなり、この数値モデルは十分実用になると思いました。

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3. 数値モデルを使って上限値を超える場合の確立を求める

回帰分析で作った数値モデルに 60 を入れると、3.04 という数字が返ってきました。つまりパーセントにして 0.0547%、DPMO にして 547 台の装置は、55.75 から 60.25 の階級間隔に収まることが分かりました。60 を超えるものはこの半分として、少なくとも 100 万台うち 274 台は、もしかしたら上限値 60 を超えるかもしれません。

結局のところ弊社のブラックベルト氏には、「客先には DPMO は 274 くらいに答えた方が良いよ。もし客先がそれで納得しなければ実際のデータを見せて、実際の確立はもっと低いことを説明してあげればよい。」と答えておきました。だって、ゼロ DPMO ってことは決して無いと思いますので。