エッセイ: トレーニング教材とベルト認定

もうすぐ半年に一度の DFSS(Design for Six Sigma)グリーンベルト認定トレーニングが始まります。5 日間の実習を交えた講習で、DFSS の概念からツール類、そして活用方法などについて教えます。そろそろ教材の見直しを始めないといけないのですが、なかなか気持ちにスイッチが入りません。これまで使っていた教材を使えば何とか 5 日間のトレーニングを乗り越えることができるかもしれませんが、やはり毎回少しずつでも教材を改善していきたいと思っているので、少々焦りがでてきました。

僕の勤める会社では、グリーンベルト認定トレーニングを、その後に続くプロジェクトの前段階として捉えています。まず 5 日間のトレーニングでは一通り DFSS のフレームワークやツールについて例題を交えながら教えます。その後のプロジェクトでは、実際に DFSS を使って、製品やプロセスの設計・開発を行ってもらいます。そして最後に プロジェクトの発表を行ってもらい、そこで他のマスターブラックベルトや直属の管理職から DFSS の知識と経験を認めてもらえれば、晴れてグリーンベルトの認定を授けます。ここまで通常 4 ヶ月から 6 ヶ月、長い人で 2 年くらいかかります。そのためグリーンベルト認定トレーニングは、実際のプロジェクトの準備として、とても大切なのです。

グリーンベルトの認定に、どうしてトレーニングだけではなく、実際にプロジェクトまで行うかというと、それには理由があります。人が何かを習得するときは、だいたい以下のような段階を経るからです。

  1. 知識を得る
  2. 理解できる
  3. 利用できる
  4. 分析できる
  5. 組合すことができる
  6. 評価することができる
  7. 新しいものを創造することができる

一般のリーンシックスシグマ認定団体が認定するグリーンベルトは、試験に合格するだけで認定を与えることが多いようですが、その場合、受講者のレベルは 2 の段階で留まってしまいます。しかし会社としては社員が DFSS やリーンシックスシグマを理解できるレベルでは困ります。やはり実際に活用できなければ、せっかくの投資も無駄になってしまうので、せめて 3 か 4 のレベルまで達して欲しいのです。そのため社内のグリーンベルト認定では、実際のプロジェクトを通じて、DFSS や リーンシックスシグマを活用してもらっています。

習得の段階を理解することは、教材を作る上でもとても重要なので、自らの復習のために整理しておきたいと思います。

1.知識を得ること

受講者が、学んだ情報を思い出すことができること、または認識したり、記憶できていることを目指します。言い換えれば、受講者が DFSS やリーンシックスシグマで使う言葉の定義や分類ができること、言葉の説明を思い出したり、情報の場所を覚えていたり、概要や例題を思い出すことができること、まはた事実と意見の区別ができることを目指します。

インストラクターが一方的に話す普通の講習では、このレベルが限界かもしれません。

2.理解できること

受講者が、学んだ情報の意味を理解していること、別の言葉で翻訳(言い換え)ができること、包括的に全体を捉えることができるようになることを目指します。言い換えれば、受講者が自ら DFSS やリーンシックスシグマの内容を要約したり、説明したりすることができること、まはた内容を比べたり、他の例を挙げることができることを目指します。

討論形式にすることによって、受講者が自分の言葉で説明できる機会を与えられ、始めてこのレベルにまで達することができるかもしれません。

3.利用できること

受講者が、学んだことを実際に使うことができるようになること、与えられた例題とは違う状況でも応用が利くこと、そして間違いを修正できるようになることを目指します。言い換えれば、問題を解決することができること、問題の全体像を描写することができること、計算したり、運用したり、結果を予測できることを目指します。

このレベルは、実際のプロジェクトでの応用・実践経験が必要になります。

4.分析できること

ここまで来れば受講者というよりも、DFSSやリーンシックスシグマの実践者というべきかもしれません。

このレベルでは、実践者が問題の詳細な部分まで、解決策や情報の違いを認識できること、そして問題の要素を識別し、要素同士の関係を理解し、問題の本質を再構築することができることを目指します。言い換えれば、仮定なのか、証拠なのか、それとも単なる疑問なのかを区別し、さらに問題を分析し、問題の構成要素を再編成し、その上で情報の選択や推論を行うことができるようになることを目指します。

ここまで来れば、グリーンベルトの認定には申し分ありません。

5.組合すことができること

実践者が、DFSS やリーンシックスシグマのフレームワークを把握し、その構成要素を組み合わせて、別の形で大きな枠組みを作ることができることを目指します。言い換えれば、DFSS やリーンシックスシグマのフレームワークを使って、新しいアイデア(設計、推論、開発、統合)や行動プラン(計画、記述、報告)が作れるようになります。

ここまで来れば、ブラックベルトのレベルです。

6.評価ができること

実践者が価値の判断や適切な評価に従った情報の利用ができることを目指します。質的または量的な価値の判断方法を身に着けます。言い換えれば、評価、選択、判断、定義、承認、批判、弁明、帰結などが行えるようになります。

7.新しいものを創造することができる

実践者がこれまでの経験や知識を活かして、まったく新しいか価値や方法を作り出せることを目指します。

マスターブラックベルトとして、このレベルが求められているような気がします。