バリュー・ストリーム・マップは一目で物と情報の流れが掴めるため、プロセスの概要を知るにはとても便利なツールです。しかし実際の作業はもっともっと複雑なことが多いため、バリュー・ストリーム・マップを作った後は「ちょっと単純化し過ぎていないか?」と疑問を持つこともあるのですが、そもそもバリュー・ストリーム・マップの目的は、①問題点を見つけて、②チーム内でその問題点を共有し、③プロセスの改善へと導くことなので、少々単純化し過ぎているくらいがちょうど良いのかもしれません。
バリュー・ストリーム・マップは改善イベントの中のメイン・イベントとして、チームで作り上げていきます。部屋の壁一面に張った大きな紙と、付箋やカラーペンを使いながら、何時間もかけて(場合によっては何日もかけて)チームでワイワイガヤガヤしながら作り上げていきます。
付箋を張っては並び替えて、意見を交換しながらバリュー・ストリーム・マップを作る作業はとても楽しいだけではなく、チームメンバーがプロセス全体を理解することにも役立ちますし、何よりもチームワークの向上が計れます。
しかしチームメンバーはそれぞれの仕事の専門家であっても、バリュー・ストリーム・マップの専門家ではありません。またコンピュータの画面上でバリュー・ストリーム・マップを作るのとは違い、大きな紙に付箋やペンを使って作っていくので、レイアウトの変更など、やり直しが簡単ではありません。そのため実際にチームでバリュー・ストリーム・マップを作る際は、決まった手順に従って簡潔に作ることが求められます。
以下はチーム(複数の人々)という環境の下で、僕が実際にバリュー・ストリーム・マップを作るための手順です。
バリュー・ストリーム・マップ(物と情報の流れ図)の作り方(実務編)
- バリュー・ストリーム上、誰が顧客であるかを確認し、顧客をマップの右上の置く
- バリュー・ストリーム上、何がプロダクト(商品)であるかを確認し、プロダクトをマップの右上に置く
- プロセスの最初ステップを確認し、マップの右上に置く
- プロセスの最後のステップを確認し、マップの右上に置く
- マップの右上に置いておいたプロセスの最初のステップを、マップの左端に移動させる
- マップの右上に置いておいたプロセスの最後のステップを、マップの右端に移動させる
- プロセスの残りのステップを、最後のステップから逆方向に、または最初のステップから順方向に順次追加し、マップ上に並べていく(プロセスのステップは、在庫や待ち行列などが積み上がる可能のある作業等。先に SIPOCを作っておくと、この作業が早くなる)
- 三角形の在庫マークを全てのプロセス・ステップの間に置いていく(たとえ在庫がなくても置いていく)
- 人やデータベースなどに対して、情報、物、サービスのやり取りがないかどうか、すべてのプロセス・ステップで確かめる(先に SIPOC を作っておくと、この作業が早くなる)。そして、人やデータベースと各プロセス・ステップを矢印で結ぶ
- 時間線(はしご)をプロセス・ステップの下に置く
- それぞれのプロセス・ステップの作業時間を時間線(はしご)に記入していく
- それぞれの在庫量を三角形の在庫マークに記入していく
- それぞれのプロセス・ステップの成功率(%)を時間線(はしご)の下に記入していく(成功率は、失敗なしに作業が一度で完了する確率)
- 一日の平均需要量を、マップの右上に記入する
- それぞれの在庫のリードタイムを計算する(リードタイム = 在庫(待ち行列)/ 平均需要量)
- 他のすべての情報(シフト、作業者数、など)をプロセス・ステップに記入していく
- それぞれのプロセス・ステップを結ぶ矢印のタイプを決め(押し込み、先入れ先出し、スパーマーケット、等)、記入していく
- パンチ・ライン(強烈なメッセージ)を、バリュー・ストリームの最後に記入する
- どのステップの、どのデータに問題があるのかをチームで検討し、改善箇所に稲妻マークを置いていく
- どのステップの、どのコミュニケーション(データや物、サービスのやり取り)が無駄だったり重複しているのかをチームで検討し、改善箇所に稲妻マークを置いていく
- その他、チーム内で現在のプロセスの問題点を検討し、改善箇所には稲妻マークを置いていく
- 見つけた問題点(カイゼン稲妻マーク)を解決するよう将来のプロセスを設計する
以上です。後は問題点(改善項目)に優先順位をつけ、スケジュールを決め、設計した将来のプロセスを実現することを目指してプロジェクト立ち上げ、それを推進させていきます。プロジェクトは対象とする範囲(スコープ)の大小に合わせて次の様に分類します。
- Just-Do-It(あとはやるだけ): すぐにやれそうな簡単な改善
- イエローベルト・プロジェクト: 小さい範囲で短い期間のプロジェクト
- グリーンベルト・プロジェクト: 大きな範囲のプロジェクトで、人やお金などの資源をそれほど必要としないもの
- ブラックベルト・プロジェクト: 大きな範囲のプロジェクトで、多くの資源を必要とするもの
バリュー・ストリーム・マップをチームで作る時にいつも気付くことは、プロセス全体を把握している人が殆どいないということです。プロセスのいたるところで無駄が発生するのは、それが理由なのでしょう。分業化の弊害です。
バリュー・ストリーム・マップは時にはプロセスを単純化し過ぎることもありますが、チームでプロセス全体を把握し、無駄を削減するためのアクションを起こすには極めて有効なツールだと思います。