どの企業の、どのサービスでも、お客様の声を大切にします。顧客満足を高めるためのフレームワークであるリーンシックスシグマももちろんお客様の声を大切にします。リーンシックスシグマには、DMAIC(Define、Measure、Analyze、 Improve、Control)や DMADV(Define、Measure、Analyze、Design、Verify)など、いくつかの問題解決のためのフレームワークがありますが、それぞれ共通するのは、定義(Define)フェーズで、まずお客様の声を拾い上げ、サービスや品質の向上など、問題解決の方向性と目標を定義することです。この過程(もしくはツール)をボイス・オブ・カスタマー(VOC)と呼んでいます。VOC を誤ると、まったく顧客満足を得られないサービスや製品を作りかねないので、リーンシックスシグマのプロジェクトの中でも、VOC は最も重要なツールとなっています。
顧客の声を拾い上げることは容易ではありません。まずほとんどの場合、顧客の声はクレームです。良い関係を築いている顧客は、要望を言ってくれるかもしれません。しかし製品やサービスの向上について、具体的な改善案を言ってくれる顧客はまずいないと言っても良いでしょう。(例えば、先のポストで僕は卓球台へのクレームを書きましたが、要望も、具体的改善案も書いていません)
VOC へのインプット(入力)はもちろん顧客の声ですが、アウトプット(結果)は、新しい製品やサービスの期待結果(アウトカム)とその優先順位です。卓球台の例では、
- より組み立てやすくする(組み立て時間を 20 %短縮)
- 加工精度を上げる(穴位置のアライメント Cpk を 30 %向上)
- 部品強度を上げる(強度を 20 %向上)
- 製品コストを下げる(製造コストを 10 %削減)
など、次期製品に対して色々と期待結果があります。しかし、すべてが同じ優先順位ではありません。限られた人材や予算で、最も高い効果を上げるためには、期待結果に優先順位をもたせ、優先順位の高いものから実現していくことが大切になります。
顧客の声を拾うために、VOC ではまず、顧客のジョブマップ(Job Map)を考えます。顧客は必ず、何か仕事を達成するために、製品やサービスを購入するからです。例えばレストランで食事をする場合、顧客のジョブマップは
- 希望のレストランを検索する
- レストランに予約をとる
- レストランに行く
- メニューを見て楽しむ
- 食事をオーダーする
- 食事を楽しむ
- ウェイトレスとの会話を楽しむ
- 勘定を払う
など、一連の仕事をします。卓球台の例では、購入から運搬、組み立て、プレイまで、一連のジョブマップが考えられます。
実際に顧客の声を拾うためには、アンケートやインタビュー、顧客からのフィードバック(クレームなど)などの方法がありますが、すべてジョブマップに従って分析していきます。
そしてそれぞれのジョブに対して顧客の声を拾い上げた後は、次期製品やサービスの期待結果(向上の方向性と目標)を決定していきます。レストランの例では、ホームページ上のレストラン情報を 10 %増やすとか、メニューにイラストや写真を載せるなどといったものです。
限られた時間と予算の中で、すべてを一度に行うことは難しいでしょう。そのため 階層分析法(AHP: Analytic Hierarchy Process)などを使って、それぞれの期待結果に優先順位をつけていきます。
ジョブマップと同様に重要なアプローチが、消費チェーンと呼ばれるものです。消費チェーンは、マーケティングや環境面の両方で、近年その重要性が高まってきています。
消費チェーンでは、製品を製造してから廃棄されるまでのライフサイクル全般についての消費の流れを分析します。卓球台の例では、
- 梱包パッケージを搬送する
- 梱包パッケージを店頭に陳列する
- 梱包パッケージを顧客が持ち帰る
- 梱包パッケージを顧客が廃棄する
- 卓球台として利用される
- 卓球台の自社マークで広告する
- 卓球台を修理する
- 卓球台の部品を確保する
- 卓球台を廃棄する
などが挙げられます。梱包パッケージは自社製品を宣伝する広告にもなりますし、梱包材などの廃棄は環境への配慮が必要です。VOC では消費チェーンのそれぞれの項目についても、期待結果と優先順位をつけていきます。
VOC は期待結果を実現する方法については言及しません。あくまでも問題解決の方向性と目標を定義するだけです。リーンシックスシグマでは、問題を解決する方法については、次の測定(Measure)や分析(Analyze)フェーズで行います。逆に言えば、最適な問題解決方法を先入観なしに決定するためにも、VOC の期待結果には解決方法を含んではなりません。
ところで、もし僕が買った卓球台のあの中国メーカーが VOC を行っていて、それを元に多くの問題点を解決していれば、僕を含め多くの顧客が満足していたことでしょう。
また僕にとっては、この VOC のアプローチは肌理細やかで、とても日本的な感じがします。日本でもっともっと活用されても良いツールの一つではないでしょうか。