エッセイ: リーンは東洋思想、シックスシグマは西洋思想

リーンシックスシグマのリーンとシックスシグマは、元々は別物でした。リーンはトヨタのTPS(トヨタ・プロダクション・システム)を原型としており、またシックスシグマはモトローラの品質管理システムを原型としています。両者の思想はまったくの別物と言っても過言ではないでしょう。

フレームワークの歴史

リーンは顧客が求める価値を高めるために、品質、コスト、納期、モラル、安全に主眼を置き、無駄の削減を行うことを目的とします。また改善活動に代表されるように、企業文化の育成、社員の教育など、全社的な努力を継続して行うところに特徴があります。トヨタは長い年月をかけてTPSを築いてきましたが、2000年に入って、J. P. Womack が ”Lean Thinking” という本を出版したことにより、リーンという言葉がTPSに代わって広く知られるようになりました。

リーンによる無駄の削減では、組織や業務(プロセス)の継続的改善が重要になってきます。「健全なプロセスが品質を作り込む」という思想は、日本の禅や道にあるような精神的文化に通ずるものを感じます。またリーンは、まるで人が健康を維持促進するために毎日適度な運動を行い血液の流れを促進したり、血圧や体重を管理するのに良く似ています。もし体調に異変があれば局部だけでなく体全体のバランスを取ったり、体が本来持つ治癒力を刺激することで健全な体を作り上げようとする、まるで東洋医学の様です。

一方シックスシグマは、デミングの品質管理システムを基に、モトローラが開発した品質管理手法です。製品のバラツキを減らし、安定させることで、製品品質の向上を図ります。その後GEが全社的にシックスシグマを導入し、製品品質の向上に成功したことによって、シックスシグマが広く知られるようになりました。

シックスシグマは、統計的手法を使ったデータ分析による品質管理を得意としています。製品サンプルを統計的に分析し、問題が見つかれば、問題解決のためのプロジェクトを起こし、一つ一つ対応していくこの思想は、膝が悪ければ外科手術により膝関節を交換したり、体調が優れなければ薬や注射で直そうとする西洋医学の様です。そのためには事前の検査や薬の調合は精密に行われるでしょう。シックスシグマが問題解決に実際に着手する前に、データの解析に時間をかけるところ、西洋医学に良く似ています。

どちらが良いとか悪いとかいうものではありません。もし出血があれば、西洋医学を使ってまず止血しなくてはならないし、また一方では健康を維持促進するに、医食同源的な東洋医学のアプローチが必要になるからです。

そこで2002年に M. George と R. Lawrence が ”Lean Six Sigma: Combining Six Sigma with Lean Speed”を出版し、リーンとシックスシグマを合わせた品質管理手法が生まれました。リーンシックスシグマは両者の良いところを取り入れて、より良い品質、より早い納期、より高い顧客満足、そしてより良い社員を目的としました。東洋思想と西洋思想の融合、といったようなものでしょうか。

シックスシグマには他の発展もあります。シックスシグマは西洋医学に似ているように、問題が起きて初めて対処するといった、どちらかというと後追いの手法です。そのため品質向上に限界が出てきました。そこで、「品質問題が起こってからではなく、品質問題が起こらない製品を開発する」という思想のもと、DFSS( Design for Six Sigma )という手法が生まれました。DFSSでは設計段階からシックスシグマを実践していきます。

リーン、シックスシグマ(DFSSを含む)、これが今の主流となっています。

リーンシックスシグマの特徴

この歴史的経緯や、異なった手法が交じり合っている点などが、リーンシックスシグマが多くの人達にとって難解なものになっている原因だと思います。事実リーンシックスシグマの現場でも多くの混乱がありました。幸い十数年が経ち、諸先輩たちの多くの努力の結果、今ではリーンシックスシグマは一つの手法として確立されるようになりました。そのため、今後の一層の導入が期待されています。