リーンシックスシグマを宗教に喩える人がよくいます。そしてリーンシックスシグマの信奉者はリーンシックスシグマを称え、そうでない人はリーンシックスシグマを貶します。実際、僕が働く職場でも、反リーンシックスシグマの人はたくさんいます。
反リーンシックスシグマの人に共通していることは、「リーンシックスシグマを知らない」ということです。これは何もリーンシックスシグマに限ったことではなく、人は自分の知らないものに対して、拒否反応を示すものです。宗教や文化、政治など、紛争の原因はほとんどすべては、相手を知らない、または知ろうとしないところにあるのではないでしょうか。
リーンシックスシグマの場合、その反論はだいたい共通しています。共通しているため、反論とその答えについて書かれた文章はたくさんあるのですが、今日はこの記事が目に付いたので、紹介を兼ねながら僕の意見を追加していこう思います。
1. どうせリーンシックスシグマって、ただの流行でしょ?
確かに 1990 年代後半、ゼネラル・エレクトリック社(GE)のジャック・ウェルチCEO が全社的にシックスシグマを導入した時は、流行したのかもしれません。僕の感覚では、流行というよりも、むしろ注目された時期だったと思います。
シックスシグマはそれよりも前 1980 年代に、モトローラから始まっています。GE が導入した時は確かに注目されましたが、それ以来、色々な企業や分野に浸透していき、発展・改良され、応用も進み、多くのツールが統合され(例えばリーン)、今ではシステム化された問題解決のためのフレームワークとして定着しています。
もしリーンシックスシグマが単なる流行であれば、このような発展はなかったであろうし、今頃はきっと廃れ果てていたのではないかと、僕は思います。進化しつつ 30 年以上も生き延びているからには、それなりの理由があるはずです。
2. どうせリーンシックスシグマって、大企業のものでしょ?
リーンシックスシグマは大企業のものであって、中小企業では使えないと思っている人が多くいます。確かに大企業などでは、リーンシックスシグマ専属の部門があったり、専属のブラックベルトが何人も職場に配置されている場合もあるので、それを見聞きすれば、そのような誤解を抱くかもしれません。
リーンシックスシグマは問題を解決し、企業の利益や生産性を向上させるための単なるフレームワークなので、専属の職員や部署とは全く関係がありません。リーンシックスシグマは、ムダを省き、生産性を向上させ、利益を増やすために継続して改善を行っていくことを目指している全ての企業・組織のためのものです。組織の大きさとは全く関係がありません。社長だけでも、パートタイムの人だけでも、リーンシックスシグマは始められます。
むしろ僕は、小さな組織の方が、効率的にリーンシックスシグマを導入・運用できるのではないかと思っています。多くの反対勢力の中で粉骨砕身するよりも、むしろ少数の協力者と実践する方が成功の確率が高いからです。
3. どうせリーンシックスシグマって、顧客の印象を高めるだけのものでしょ?
VOC(Voice of Customer)に代表されるように、確かにリーンシックスシグマは顧客志向です。顧客が望む「価値」を提供しようとするので、リーンシックスシグマを実践する企業は、顧客の目から見ても好印象を与えます。
しかしリーンシックスシグマを実践する企業にとって、本来の目的は企業利益であって、顧客の好印象は副次的なものです。リーンシックスシグマは企業利益を追求するためのものであることを忘れてはいけないと、僕は思います。
4. リーンシックスシグマなんていらない
必ず聞く言葉です。逆に質問したいのは、ではどうして品質管理部門や生産管理部門、マーケティング部門があったりするのでしょうか?品質も生産も必要ないのでしょうか。まさか顧客まで必要ないとは言わないと思いますが。
品質や生産性を向上させる必要はないのでしょうか。顧客を増やす必要はないのでしょうか。
もしかしたら品質も生産も必要なく、それを向上させる必要もないかもしれません。もしかしたら顧客を増やす必要もないかもしれません。でも一つ忘れていることがあります。それは競争です。もし競合他社が品質や生産性を向上させ、顧客を増やしていたら、どうなりますか。きっと今ある顧客もそのうち他社に奪われてしまうでしょう。
それを避ける一つの答えは、リーンシックスシグマを競合他社よりも早く、上手く使うことだと、僕は思っています。
5. 顧客は別にリーンシックスシグマを望んでいない
顧客がリーンシックスシグマを望むことはないと思います。顧客が望んでいるのは、品質の高い製品やサービスを、低価格で提供してくれることだけです。つまり品質や価格に競争力があることだけです。
リーンシックスシグマは一つの選択肢ですが、もし競合他社よりも高品質で低価格の製品やサービスを提供する別の方法があるのであれば、それを使えば良いと思います。
6. リーンシックスシグマに投資する余裕はない
長年の研究で、リーンシックスシグマは売り上げに対し、1.7% のコスト削減に結びつくということが分かっています。またリーンシックスシグマに投資したお金の倍の利益に結びついている、という結果もあります。つまりリーンシックスシグマに2百万投資することで、4百万円の利益が余分に得られるということです。
多くの企業は数パーセントの利益を確保するために、コスト削減に日々励んでいます。リーンシックスシグマの導入で、売り上げに対し 1.7% のコスト削減が期待できるのであれば、その投資を拒む理由は少ないと思うのですが。
7. リーンシックスシグマについては分かった。でも、自分のやり方でやるから結構
あなたがもし、上司からリーンシックスシグマに関わる新しいプロジェクトを任された時、リーンシックスシグマを使わず、恐らくあなたのやり方でプロジェクトを遂行することもできるでしょう。しかしプロジェクトの成功率は格段に下がります。特にリーンシックスシグマに関わるプロジェクトは、品質向上など、統計的アプローチを伴う重要な案件が多いからです。
リーンシックスシグマは単なるツールの寄せ集めではなく、確立されたプロジェクト管理手法でもあります。そのため上司のサポートなしではプロジェクトの遂行は困難です。もしあなたのやり方で遂行したプロジェクトが失敗した時、上司からの信用を失ってしまうことは、間違いないでしょう。
8. 他にも色々試したけど、結局どれも上手くいかなかった
ということは、まだリーンシックスシグマは試していないようですね。しかし一体どんな方法を試してみたのでしょうか。ただのキャンペーンだけで終わってしまったのか、それとも途中で諦めてしまったのか、何かに失敗してしまったのか、効果的に導入できなかったのか、色々と理由がありそうです。
細かいところまで聞いてみないと、リーンシックスシグマに対する反論と、それに対する答えにはなりそうもありません。
9. プロセスが標準偏差で 1.5 ずれるって本当?それならリーンシックスシグマは使えない
長期的にプロセスが標準偏差で 1.5 ずれるというのは、30 年前にモトローラが経験から導いた数字です。それを教えることもありますし、実際にその頃はそういうこともあったかもしれません。しかしそれを取り上げて、リーンシックスシグマは使えないというのは、言い過ぎだと思います。
30 年も前にそのことに気づき、それを防ぐために品質を高めるツールを開発したり、データ収集やその解析をシステム化したりして、製品やプロセス、サービスのバラツキを減らすことに成功したリーンシックスシグマを、僕はむしろ評価すべきだと思います。
リーンシックスシグマは、その結果がすべてを物語っています。長期的にプロセスが標準偏差で 1.5 ずれるというのは、なにもリーンシックスシグマだけのことではありません。その可能性はどんな手法にもありますし、またその可能性だけでリーンシックスシグマを否定するのは間違っているでしょう。
10. シックスシグマはアメリカだけで通用するのでは?
所謂、NIH(Not Invented Here)の問題です。リーンシックスシグマに限らず、自分の国や会社、組織で作られた仕組みではないと、つい拒絶したくなるものです。しかしリーンシックスシグマは、統計学に基づいて行われる、科学的なアプローチです。統計学も科学も、世界的なものではないでしょうか。
実際に、台湾やインド、メキシコ、オランダ、フランス、ヨルダンなどでは、国が予算をつけて導入を試みているようです。
シックスシグマの胡散臭いところは、セブンであつてもサウザンドであっても構わないのに、シックスといって技術者を混乱させ、理解もしていない経営者を小躍りさせることです。
本文中でも、プロセスは1.5σずれると書いていますが、単位も絶対値も平均値も記載されてません。つまり、技術者からはゴミにしか見栄なぉのです。
コメントを頂きどうもありがとうございました。
「シックスシグマ」というのは、ある手法につけられた単なる名前であって、6σ にしなければいけないということはありません。もし技術者や経営者を混乱させ小躍りさせることがあれば、それはコンサルタントや本などが悪いと思います。
業界にもよりますが、医療や宇宙航空など人命や多大なコストに関わる分野の中でさらに精密さを求められる部品などは 6σ を目指すかと思いますが、そうでない分野はさらに低い σ値で十分です。僕は電気機械の分野でシックスシグマを使っていますが、目標値は 4σ です。品質とコストを考えると、それ以上の σ値は経済的ではないからです。逆に σ値が高い場合は、単価の安い部品に置き換えて、製品コストと σ値を下げることもあります。
「シックスシグマ」は単なる名前(アメリカで付けられた)と書きましたが、「シックスシグマ」という名前を使っていなくても、同じ手法を使って高品質を図っている企業が日本でも数多くあります。そのような日本企業の手法を調べてみるのも面白いかもしれませんね。
ちなみに、σ値にはファクターであって単位はありません。
もし宜しければ、またコメントを下さい。お待ちしています。