解説: リーンシックスシグマの始め方

「リーンシックスシグマに興味はあるけれど、どうやって始めれば良いのかよくわからない」という声を時々耳にします。リーンシックスシグマだからといって特別な方法があるわけではなく、何かを始めたり、何かを変える時、大抵やることは同じようなものです。しかし個人でリーンシックスシグマを始めるのと、組織でリーンシックスシグマを導入するのでは雲泥の差があります。

個人の場合

個人の場合は本人のやる気次第です。書籍を読んだりトレーニングを受けたりして、まず凡その知識をインプットした後は、実践を通じてアウトプットをしていきます。後はそのインプットとアウトプットを繰り返して、リーンシックスシグマの幅と奥行きを広げていくだけです。

初めて専門書を読んだり専門トレーニングを受けたときは、その内容の多さに戸惑うかと思いますが、その内容をすべてを覚えたり(インプット)使ったり(アウトプット)する必要は全くありません。日々の業務に応じて必要と思ったツールを必要な時に使い始めるだけで、日々の業務のやり方がだんだんとリーンシックスシグマ風に変わっていくでしょう。インプットとアウトプットを繰り返すうちに、「ああ、リーンシックスシグマはこういうことだったのか」と気づく瞬間がそのうち必ず来ます。

トレーニングの後にその内容の多さに圧倒されて途方に暮れている人には「焼き魚」の例え話をすることがあります。丸ごとの魚を食べ慣れていない人は、どこから箸をつければよいのか分からないものです。そんな時は食べやすいところから箸をつけ、食べやすいところだけ食べれば良いのです。どう食べようかあれこれ考えているよりも、魚が熱いうちに頂いた方が美味しいからです。何度か丸ごとの魚を食べていれば、そのうちに骨だけ残して綺麗に、しかも早く食べられるようになるし、魚のどこが美味しいのか、どう料理すれば一番美味しいのかが分かり始めるでしょう。

組織の場合

組織でリーンシックスシグマを導入する場合は、一般的な変革の方法と同じく、ジョン・コッターの組織変革のための 8 段階プロセスを使います。コッターの 8 段階プロセスは、リーンシックスシグマに限らず、新しい業務を導入するときなど、必ずと言って良いほど使われる方法です。書籍でもコンサルタントのやり方でも、殆どの変革のためのリーダーシップ論はコッターの 8 段階プロセスが基本になっています。

コッターの 8 段階プロセスは、1996 年にハーバード・ビジネススクールの教授であったジョン・コッター氏によって書籍 Leading Change で発表されました。そこでは、組織を変革させるためにはリーダーシップが不可欠で、変革のためには 8 段階のプロセスを実行していくことが望ましい、と言っています。コッターは 100 以上の企業を研究して、この 8 段階のプロセスを導いたそうです。

コッターの変革のための 8 段階プロセス

  • Step 1: 危機意識を高める (Create urgency)
  • Step 2: 変革のための連帯チームを築く (Form a powerful coalition)
  • Step 3: ビジョンを生み出す (Create a vision for change)
  • Step 4: 変革のためのビジョンを周知徹底する (Communicate the vision)
  • Step 5: 自発的な行動を促す (Empower action)
  • Step 6: 短期的成果を実現する (Create quick wins)
  • Step 7: 成果を活かしてさらなる変革を進める (Build on the change)
  • Step 8: 新しい方法を定着させる (Make it stick)
Kotters Model

では、リーンシックスシグマを始めるとき、「どのようにしてコッターの 8 段階プロセスを使うか」ということについて述べたいと思います。

1. 危機意識を高める

危機意識を高める前に危機を認識する必要があります。もしかしたら危機を認識することが一番難しいことかもしれません。リーンシックスシグマの導入は、

  • 今の組織のやり方は行き詰っている
  • 今変革しなければ、近い将来この組織は無くなるだろう

と、危機を認識できるかどうかに掛かっています。しかしこれは自己保身が目的の管理職や組織にとっては難しいことかもしれません。それでも外部(競合他社)からの脅威や達成困難な経営目標、社内の問題などから危機を感じ取ることができるはずです。

リーンシックスシグマこそが組織を動かす現実的な方法で、危機をさける最善の方法だと、リーダー自らが決心する必要があるのです。

2. 変革のための連帯チームを築く

危機意識が十分高まった後は、強い権限を持ち、リーダーシップを発揮できる適切な人材によって連携チームを築きます。個人よりもチームとして働ける能力を持った人達が必要です。理想としては、社長や副社長がチームに加わってくれれば最高です。

リーンシックスシグマの組織にはチャンピオンという役割がありますが、連携チームのメンバーはこのチャンピオンに該当します。組織をリーンシックスシグマに導くには、

  • 製品開発・技術部門
  • 製造部門
  • 品質管理部門
  • 経営部門
  • 人事部門

それぞれにチャンピオン(連携チームメンバー)を置く必要があります。

3. ビジョンを生み出す

組織をリーンシックスシグマに導くには、次に、連携チームメンバーは明確で簡潔なビジョンを示す必要があります。

組織にとって「リーンシックスシグマとは何か」を明確にします。「1. 危機意識を高める」で述べたように、外部(競合他社)からの脅威や達成困難な経営目標、社内の問題などに対して、リーンシックスシグマが何を意味するのかを、ビジョンとして反映させます。

4. 変革のためのビジョンを周知徹底する

組織にリーンシックスシグマのビジョンを浸透させるには、コミュニケーションが必要不可欠です。そのためには、①簡潔なメッセージを、②あらゆる方法を使って、③繰り返し行うことがどうしても必要です。リーダーが繰り返し繰り返し同じメッセージ(ビジョン)を送り続けて、ようやく組織が動きだします。

5. 自発的な行動を促す

ビジョンが共有されると、外部(競合他社)からの脅威や達成困難な経営目標、社内の問題などを解決するために、個々の組織員が自発的な行動を開始します。それを促し補佐する必要があります。

リーンシックスシグマのブラックベルトやグリーンベルトのトレーニングを開始し、自発的な行動を促進します。

6. 短期的成果を実現する

変革を促すには、早い段階で小さな成功を積み重ねることが最善の方法です。この段階でブラックベルトやグリーンベルトのプロジェクトを開始し、成功体験を積み重ね、組織内で成功体験を共有することが変革への近道です。

7. 成果を活かしてさらなる変革を進める

狭い範囲ながらもリーンシックスシグマで成功を体験した後は、その範囲を広めていきます。違う業務にリーンシックスシグマを応用してみたり、DFSS を製品開発に使ってみたり、リーンを使って業務から無駄を省いてみたり、色々なことに挑戦します。

8. 新しい方法を定着させる

リーンシックスシグマの導入に成功した後は、いかにリーンシックスシグマを定着させるか、言い換えれば、どのようにして今後 10 年 20 年とリーンシックスシグマを継続させるか考える必要があります。例えばどのようにブラックベルトやグリーンベルトを配置するかとか、どのようにプロジェクト選択するかなど。社内でベルト認定制度などを設けるのもこの段階です。

あのモトローラや GE でさえ、CEO が代わったことを契機に 10 年後にはリーンシックスシグマが廃れてしまいました。ここが本当の正念場です。

コッターの変革のための 8 段階プロセス、その他の例

話は飛びますが、コッターの 8 段階プロセスを使っている卑近な例が SAFe (Scaled Agile Framework)です。SAFe は明確な導入ロードマップを示していますが、よく見ると決して新しいものではなく、コッターの 8 段階プロセスを使っているのが分かります。

SAFe Implementation Roadmap

SAFe Implementation Roadmap

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