エッセイ: リーンシックスシグマの推移と求人市場

ついに長年一緒に仕事をしていた上司が定年引退してしまいました。この上司は製品開発部のマネージャーであり、DFSS(Design for Six Sigma)のマスターブラックベルトであり、なによりも僕の DFSS やリーンシックスシグマ活動の良き理解者であり、最大の応援者でした。そもそも僕を今の会社に引っ張ってきてくれたのもこの上司でした。この上司の引退には感慨深いものがあります。

彼の引退は僕の現在の仕事だけではなく、将来の方向を決める上でも大きな影響を与えるはずです。まだ後継のマネージャーが決まっていないので何とも言えないのですが、万が一リーンシックスシグマの”理解者”が上司になった時のことも考えて、求人市場(求人サイト)を見て回ることを始めました。

まずは大きな市場の流れからと思い、リーンシックスシグマが Google で検索されている様子を Google Trends で調べてみました。

1.  Lean Six Sigma のトレンド

以下のグラフは、英語で Lean Six Sigma という単語が Google で検索されている様子です。絶対数は分かりませんが(たぶん凄く少ないと思う)、検索のトレンドは一定しています。世界的に見れば、リーンシックスシグマの仕事は増えもしないしが減りもしないのではないのではないか、などと想像できます。

Lean Six Sigma Trend

国別の検索では、面白いことにオランダやシンガポール、アイルランドなどが上位にきています。確かオランダのフィリップスはリーンシックスシグマを使っていることで有名なので、その影響かもしれません。ちなみに日本は 49 ヶ国中 47 位です。48 位のロシアよりもリーンシックスシグマには興味があるようです。

2. Six Sigma のトレンド

次に、単に Six Sigma という単語を Google Trends に入れて検索してみました。こちらの傾向は下がりっぱなしです。モトローラや GE から Six Sigma が爆発的に広がったあの頃に比べ、現状には寂しいものを感じます。

Six Sigma Trend

国別でみるとやはりインドが一番になっています。これは僕の感覚とも一致しています。シックスシグマに関するサイトなどを見ていると、最近はインド人の投稿がとても多いのです。インドがソフトウェアから製造業にシフトしていることを、このシックスシグマの検索動向からも感じます。ちなみに日本は 65 ヶ国中 59 位、経済崩壊中のベネゼイラ(56 位)に負けてしまいました。悔しい。

3. Lean のトレンド

最近は ソフトウェアもハードウェアも、マネジメントもマーケティングも、どこもリーンが花盛りです。そこで Lean で検索すれば上昇傾向が見られるかも知らないと思い、Google Trends に Lean という単語を入れてみました。グラフから言えることは、一時のブームがあったものの、以外にもリーンは一貫して安定していました。求人市場で言えば、改善(Continuous Improvement)を求める職種は安定、かつなだらかに増えているような気がします。

Lean Trend

アメリカでは様々なリーン関連の本が売れているようなので、アメリカが検索のトップであることには十分頷けます。ちなみに日本はなんと 65 ヶ国中 65 位、最下位を飾ることができました。最下になった理由は、リーンのコンセプトや方法論など、全てと言って良いのではないかと思いますが、トヨタを始めとした日本から来ているためではないでしょうか。つまり 日本人はわざわざ Google で Lean を調べなくても良いということです(そう思いたい)。

もっとも Lean という単語は色々な意味で使われるので、このデータはあてにはできません。一応、念のため。

4. シックスシグマのトレンド

最後に日本語でシックスシグマという言葉を Google Trends に入れてみました。まあ予想通りの結果でした。その昔アメリカで Six Sigma が流行ったとき、きっと日本でも雑誌などで多く紹介されたのでしょう。その時をピークに、今ではほとんど誰も興味を持たなくなったと言えるのではないでしょうか。

Six Sigma Japan Trend

これらのトレンドからある種の危機感を覚えるのは、それが日本の製造業の衰退を表している様な気がするからです。多くの日本人は未だに日本が製造立国、ものづくり立国だと信じているようです。確かに日本が強い市場が一部残っていますが、残念ながら日本の製造業は全体的には衰退傾向です。しかしそれに対してあまり危機感を感じていない様子がこれらのトレンドから伺い知れます。

なにもリーンシックスシグマが重要だと言っているわけではありません。色々と調べてみることが重要だと言いたいのです。何が良くて何が悪いのか比較して、その中で最善のものを選べばよいと思います。

一方で製造業の発展が目覚しい発展途上国では、リーンシックスシグマの検索が多くされています。きっとその他の方法論も同時に研究されているのでしょう。これらのトレンドから感じることは、日本は世界的な競争からますます取り残されてしまうのではないか、という危機感です。

5. リーンシックスシグマの求人市場

単語検索のトレンドと同じように、リーンシックスシグマの求人市場は、数の面では少ないながらも安定しているようです。しかし質の面ではずいぶんと変わってきたように感じます。

10年前までは、フルタイムのリーンシックスシグマの仕事がかなり多くありました。今では一部企業を残して、フルタイムのリーンシックスシグマの仕事はそれほど多くありません。逆に増えたのが、リーンシックスシグマが求人内容の一部になっている仕事です。つまり事務や営業の経験と同じように、「リーンシックスシグマの経験者歓迎」というような仕事が増えているように感じます。

これに対して僕はリーンシックスシグマの重要性が低下してしまったとは思っていません。むしろリーンシックスシグマが普通の事になりつつあると思っています。例えば英語のように。昔は英語だけで就職できる時代がありましたが、今は英語は単なる求人内容の一部でしかありません。英語ができて当然といった時代になってしまいました。求人サイトを見る限り、リーンシックスシグマもそのような時代になりつつあると感じています。

転職を考えたとき、リーンシックスシグマだけでは難しいでしょう。それを活かした何かを身につけている必要があるように思います。