エッセイ: リーンシックスシグマと日本

先日帰国の折、主に製造業に携わる中小企業の方々と話す機会に恵まれました。アベノミクスで景気が上向いているとはいえ、話を聞いていると製造業を取り巻く状況の厳しさがひしひしと伝わってきました。しかしそのような状況にも関わらず、皆さんはとても明るく前向きに頑張っており、逆に多くの元気を頂きました。日頃コストダウンや品質の向上に挑戦されておられる話を聞いて、この勤勉さと継続的な努力こそが、かつては日本の製造業を世界一にまで押し上げた原動力になったのだと、改めて実感することができました。

かつて 勤勉さと継続的な努力においては日本に勝る競争相手は世界市場に存在しなかったでしょう。また市場での競争も今ほど激しくはなかったでしょう。そのため日本人の勤勉さと継続的な努力は企業にとって強力な武器となり、日本製品は世界市場で勝ち続けることができたのだと思います。

今はどうでしょうか。皆さんの話を聞いていると、閉塞感というか、何か壁に突き当たっているような感じを受けました。きっとそれは中国や韓国による追い上げが原因なのかもしれません。

勤勉さにおいては、もしかしたら今や中国や韓国、インドの方が上かもしれません。技術力においても日本の優位性はすでに失われ、品質においても日本製というだけで他国よりも優れていると信じられていた時代はとうに過ぎ去ってしまいました。今は単に「勤勉」というだけで世界に勝てる時代ではなくなってしまったようです。日本人としては少し悔しい気もしますが、それが現実なのではないでしょうか。

リーンシックシグマと日本

ではどうすれば日本の企業(特に製造業)が世界市場の変化の波に乗ってかつてのような輝きを再び取り戻すことができるのでしょうか。それには色々な意見があると思いますが、僕の月並な意見では、これからの日本の企業はこれまで培ってきた技能に加え、新にシステム的な考え方や手法、方法論などを積極的に取り入れたら良いのではないかと思っています。

日本人の勤勉さや仕事が緻密で丁寧であること、また日本人にはそれを持続させる力があることは日本企業にとって技能的な大きな強みになっています。しかし日本人そして日本企業は、どちらかというと大局を捉えようとするシステム的な考え方や手法が苦手なように見えます。

またベンチャー企業は兎も角として、今の企業は柔軟性に乏しく、新しいアイデアやコンセプトを受け入れることに抵抗があるように感じます。特にそれが海外からのもので、さらに英語を伴っている場合はなおさらです。しかし世界市場での変化についていくためには、それが海外からのアイデアであろうがなかろうが、積極的に新しいコンセプトや仕事のやり方を受け入れていかなければならないのではないでしょうか。

日本がこれまで培ってきた経験や知識を活かしながら、さらに新しい仕事のやり方(フレームワーク:考え方、手法、方法論など)を取り入れることで、今まで以上に高品質で、顧客の要求に合致した製品を、安価でしかも短納期で提供することができるようになると僕は信じています。月並みな意見ですが、それしかないと僕は思っています。問題は新しく取り入れる仕事のやり方(フレームワーク)です。

良く開発されたフレームワークに従って仕事をすることで、誰でも高いレベルで結果を残す(問題を解決する)ことができます。それがフレームワークによる仕事のやり方(考え方、手法、方法論)の強みです。その様なフレームワークはたくさんありますが、僕はリーンシックスシグマのフレームワークが一番理にかなっているように思います。リーンシックスシグマは企業活動(プロセス)を改善し、顧客満足を向上させる体系的な手法として米国で普及し、今ではヨーロッパやインド、中国でも導入が進んでいます。

とは言え、世界におけるリーンシックスシグマの普及は、必ずしも全ての企業の成功に結びついているとは言えません。リーンシックスシグマを導入したにも関わらず、実のところまったく成功に全く結びついていない企業はかなり多いと思います。それはリーンシックスシグマは導入よりも、その運用の方が遥かに難しいからです。

しかし日本人の勤勉さをもってすれば、リーンシックスシグマの運用で成功することはそれほど難しいものではないと思います。日本人には継続する力(持続力)もあります。また日本人にはリーンシックスシグマのフレームワークを守り続ける緻密さ(丁寧さ)もあります。企業は日本人が得意とする「勤勉+持続力+緻密」に新たにリーンシックスシグマを加えることで、強力な武器を手にすることにができるのではないでしょうか。逆に言えば、リーンシックスシグマは日本人の強みを生かすことができるフレームワークだと思うのです。少しでも多くの日本企業がリーンシックスシグマを導入し成功することで、日本が再び世界市場で輝きを取り戻せると信じています。