事例: こはぜ屋とリーンシックスシグマ(1)

先日、「陸王とシックスシグマ」というタイトルでエッセイを投稿しましたが、小説「陸王」はリーンシックスシグマを考える上で最適な材料だと改めて 感じたので、ここに再度「こはぜ屋とリーンシックスシグマ」というタイトルで、事例として取り上げたいと思います。

はじめに

池井戸潤氏の小説「陸王」はテレビドラマ化されたこともあり、日頃から“ものづくり”に携わっておられる多くの方々がご覧になったことと思います。「下町ロケット」の時もそうでしたが、池井戸潤氏の作品は“ものづくり”の苦労を知っているからこそ共感できる面白みがあるように思えます。

特に「陸王」は、新製品の開発を試みる零細企業「こはぜ屋」さんの血のにじみ出るような苦労が繊細に描かれており(実際に飯山顧問は血を流した)、刺激と興奮を与えてくれる大変面白い作品でした。

私が「陸王」を知ったのは実は飛行機の中でした。「陸王」のテレビドラマ全10話がビデオのリストにあることを見つけ、シカゴから成田までの11時間、一睡もしないで目を腫らしながら一気に観たのが最初です。その11時間の間に感じ続けたことは、「もし“こはぜ屋”さんがリーンシックスシグマを使っていたら、こんなに苦労はしなかっただろう」ということでした。

成田空港に着き、早速本屋に立ち寄って小説「陸王」を購入し、原作も読んでみました。そして改めて感じたことは、やはり「中小企業こそリーンシックスシグマが必要だ」ということでした。

図1 小説「陸王」 池井戸 潤 著

よく「リーンシックスシグマは大企業のためのものではないか?」と聞かれることがあります。確かにGEや3M、フィリップス、東芝、ソニーなど、大企業(特に欧米の大企業)がリーンシックスシグマを使っている場合が多いことは事実です。しかしそれは決して「リーンシックスシグマが大企業のものだから」という理由ではありません。

恐らく10年から20年前、たまたは大企業には「経済的な余裕」があり、リーンシックスシグマを企業の成長の柱として全面的に採用しただけのことでしょう。リーンシックスシグマは単なる「問題解決のためのフレームワーク」なので、企業規模を問うことはないからです。

ではこれまで何故リーンシックスシグマが中小企業にそれほど普及しなかったのかというと、恐らく経済的にも技術的にも、中小企業にとって当時のリーンシックスシグマは敷居が高かったからだと思います。

しかしリーンシックスシグマの敷居はこの10年から20年の間で随分と低くなり、経済的に余裕の少ない中小企業でも十分に手が届く時代になりました。リーンシックスシグマに関する無数の書籍が販売され、インターネット上にも多くの事例が紹介されるようになり、誰でも簡単にリーンシックスシグマを学べるようになったというだけではなく、トレーニングやコンサルタントの費用も昔に比べれば十分の一以下になったからです。

今では、少ない費用で、できる所から少しずつ、リーンシックスシグマを導入することができるようになりました。今後はますます中小企業においてもリーンシックスシグマの導入が進んでいくことでしょう。

では、中小企業の「ものづくり」の現場がリーンシックスシグマを導入したら、どのような恩恵を受けるのでしょうか。

それを具体的に説明するために「もし“こはぜ屋”がリーンシックスシグマを使っていたら」という仮説を立ててみました。多くの方が良く知っている「こはぜ屋」さんはリーンシックスシグマを説明するのに最適だと思ったからです。

今後以下のように順を追いながら、「こはぜ屋」さんを通してリーンシックスシグマの全体像を説明していこうと思います。

  1. リーンシックスシグマの目的
  2. 成長戦略シナリオの決定
  3. 問題の認識
  4. プロジェクトの設定と選択
  5. プロジェクトの管理
  6. プロジェクトの遂行
    1. DFSSによる新素材開発プロジェクト(シルクレイ開発)
    2. DFSSによる新製品開発プロジェクト(陸王)
    3. DFSSによる新製品開発プロジェクト(足軽大将)
    4. シックスシグマ(DMAIC)による既存事業の問題解決プロジェクト(足袋製造)
    5. DFSSによる新規製造プロセス開発プロジェクト(シルクレイ製造)
    6. リーンによる「こはぜ屋」事業の継続的な改善
  7. プロジェクトの評価

もし、まだ小説「陸王」をご存知でなければ、一度手にとってご覧になってみることをお勧めします。