事例: アインシュタインの格言

先日、上長からあるお題を頂きました。それは「多くの部門が共通して利用するデータベースへのデータ(設計図面や製造指示書など)の登録やその変更などのプロセスに時間が掛かり過ぎるので、そのプロセスを至急改善せよ」というものです。何でも他部門の管理職からも同様の不平や不満が上がってきているらしいのです。

典型的なプロセス改善のプロジェクトと思ったため、リーンに重点を置いた DMAIC で行こうと決め、小さなチームを編成してリーンシックスシグマのプロジェクトとして出発しました。ゲームプランは以下のようなものです。

Define フェーズ

  1. Project Charter を使ってプロジェクトの枠組みを定める
  2. SIPOC を使って大まかに現在のプロセスや、改善するところを把握する(関係者にプロジェクトを説明するため)
  3. RASCI、 Stakeholder Analysis、Communication Plan を使って、プロジェクトの関係者との情報のやり取りについて計画する
  4. VOC と KJ を使ってプロジェクトの何が問題となっているのかを把握し、プロジェクトの期待する結果を把握する
  5. AHP を使ってプロジェクトの期待する結果に優先順位をつける

Measure フェーズ

  1. VSM を使って、現在のプロセスを理解し、各ステップのデータを取得する
  2. Process FMEA を使って、現在のプロセスの潜在的な問題点を推察する
  3. アンケート を実施し、Process FMEAで推察した現在のプロセスの問題について関係者から意見を聞く
  4. アンケートの結果を統計的に分析する
  5. Pareto Chart を使い Vital Few の把握とその改善目標を設定する

Analyze フェーズ

  1. Cause & Effect Matrix を使って、また Vital Few や プロジェクト 期待結果と照らし合わせ、どのステップの改善が最も効果的か優先順位を決める
  2. Waste 分析や VA/NVA 分析を使って、各ステップを分析する
  3. VSM を使って新しいプロセスをいくつか設計する
  4. Pugh Matrix を使って、最善の新しいプロセスを決定する
  5. Process FMEA を使って、新しいプロセスの潜在的なリスクを把握し、対策を計画する

Improve フェーズ

  1. 新しいプロセスを導入する
  2. Process FMEA で把握したリスクの対応を施す
  3. 新しいプロセスからデータを取得する

Control フェーズ

  1. データを使って、改善結果を統計的に分析する
  2. 新しいプロセスをさらに改善する
  3. 新しいプロセスのマニュアルやツールを用意する

リーンシックスシグマはシステム的な問題解決手法と言われるように、問題の内容に応じて、典型的な問題解決の手順をツールと一緒に組み立てることができます(ゲームプランとか Thought Process Map とか言ったりしています)。

この計画をもとにこのプロジェクトは簡単に終わるはずだったのですが、思わぬことが起きました。Measure フェーズで現プロセスのデータやアンケート結果を分析したところ、当初聞いていた問題とはまったく違った結果が得られたのです。

聞いていた問題(VOC: ボイス・オブ・カスタマー)は

  • ドキュメントの作成が困難
  • ドキュメント作成に時間がかかり過ぎる
  • ドキュメント作成に対しサポートがひどい
  • ドキュメントの登録や変更に時間が掛かりすぎる

など、それはそれは酷いものでした。しかも複数の管理職から同じ声が上がってきていました。

しかし管理職ではなく、実際の利用者(エンジニアなど)から得たデータはこれとは対照的に 98% の処理が問題なく完了しており、利用者の 70% 以上が現在のプロセスに満足していました。データから得られた結果は管理職を中心にして得たボイス・オブ・カスタマーとは全く違った結果でした。

そこで一旦リーンシックスシグマのツールから離れて、実際の現場で何が起こっているのか現場の人達に直接聞いてみることにしました。そこで分かったことは、Majority of Silence つまり多くの利用者は現プロセスに対してほとんど不満はなく静かにしており、ほんの一部の利用者だけが大声で大きな不満を訴えているという姿でした。

どうもその不満を訴えているほんの一部の利用者(中途採用者)は、初めてそのプロセスを使ってドキュメントを登録したらしく、それもまだ一度か二度しか利用したことがなく、プロセスにもドキュメントの作り方にも不慣れだったようです。

確かにドキュメントの作成には専門知識がいるため勉強と経験が必要ですが、慣れてしまうと多少手間はかかりますが簡単な作業です。しかしこの一部の利用者にとってはそれが耐え切れず、感情的に管理職達に不平をばら撒いていたのです。管理職達もその大声を押され、その声を信じ、大きな問題だと勘違い(?)しているようでした。

どうもこれはリーンシックスシグマを使ったプロセス改善ではなく、クレーマー対応処理のような気がしてきました。そこでそのクレーマーに直接話しを聞いてみたところ、全体の業務プロセスの変更に関わるような無理難題を訴えてきましたが、クレーマーの抱える問題点だけは理解できました。

まだそれを解決するかどうか(解決する必要があるかどうか)はまだ決めていません。つまりまだ Analyze フェーズに移行できないで Measure フェーズに留まったままですが、思ったことが二つあります。

  • 「ボイス・オブ・カスタマーが重要だ」とは誰でも言っているが、ボイス・オブ・カスタマーが正しいとは限らない
  • Measure フェーズで十分時間を使って現実の問題を捉えることには意味がある

クレーマーは「とにかく何でも良いから何かしろ」と言っています。こういうのはリーンシックスシグマのアプローチではないのですが、そんなことは分かってもらえないでしょう。その時ふと思い出したのが、アインシュタイン博士の言葉でした。

命に関わるような問題を 1 時間で解けと言われれば、私は 55 分を適切な質問を決めるために使い、残りの 5 分以内でその問題を解く

Einstein Quote