事例: アンドン・システムの導入

データ分析や統計処理に重点を置くシックスシグマとは異なり、リーンはムダを省いて価値をスムーズに顧客に届けることに重点を置いたフレームワークです。今回はこのリーンを用いてたった半年間で工場の生産性を大幅に改善した事例を紹介します。

工場の問題

機械部品を製造していた古い工場では、生産計画の未達成が慢性的な問題になっていました。そして生産計画を達成するためにオペレータは残業をしなければならず、それが生産コストの上昇につながっていました。しかし工場では旧態依然とした生産が続けられ、生産計画の達成も部品の品質も、すべてオペレータ任せになっていました。

現場を観察

現場を観察してみると、確かに旧態依然とした古い工場であることがすぐに分かりました。5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)は行き届いていたものの、時より製造ラインが止まり、工程のいたるところに仕掛品が溜まっていました。

数日間現場を観察したところ、次のような問題点を把握しました。

  • 問題が発生するとオペレータが製造ラインを止め、現場を離れてサポート担当者に対策を求めに行く
  • 同じ様な問題が繰り返し発生している

さらにオペレータやサポート担当者に話を伺ったところ、

  • 問題が発生した際、その対処のための手順が標準化されていない
  • 発生した問題を記録に残し、報告する仕組みがない

ということが分かりました。そのため工場では同じ様な問題が繰り返し発生し、そのたびに

  • 作業が停滞する
  • 製造ラインのダウンタイムが発生する
  • 手直し作業が発生する
  • 定時間内に生産計画を達成できない
  • 残業によって生産計画を達成する

という悪影響が発生しており、結果として生産コストの上昇に結びついていました。そこでリーンを使ってこれらの問題を改善することになりました。

現場の問題点

PLANフェーズ

まず最初に行ったことは、 オペレータやサポート担当者を集めてワークショップを開催し、皆に現状の問題点を認識してもらい、その上でデータの取得を依頼したことでした。

3ヶ月間データを収集したところ、次のような数値を得ました。

  • 異常発生数 = 27 件/月(平均)
  • 異常報告率 = 30%
  • レスポンス時間 = 16 分(平均)
  • 月間作業ロス時間 = 16 分 x 27 件/月 = 432 分(平均)
    (7 時間 = ほぼ1日の作業時間)
  • 納期遵守率 = 85%(平均)

異常が発生していたにも関わらず、その異常を報告する割合がたった30%程度だったということに驚きを感じました。一方で、異常報告率を高めてその再発防止に努めれば、生産性がかなり高まるのではないかと思いました。また異常のたびに平均して16分も製造ラインが止まることも大きな驚きでした。

異常報告率を高めて再発防止策を施しながら製造ラインの停止時間を減らすためには、リーン生産方式で標準的なアンドン・システムが最適です。そこで工場長やマネージャ達の同意のもと、工場にアンドン・システムを導入することにしました。

アンドン・システムの導入にあたっては、次のような目標を設定しました(導入から4ヵ月後の目標)。

  • 異常発生数 = 15 件/月(平均)
  • 異常報告率 = 80% ~ 100%
  • レスポンス時間 = 4 分(平均)
  • 月間作業ロス時間 = 4 分 x 15 件/月 = 60 分(平均)
  • 納期遵守率 = 大幅改善
リーン改善目標

DO フェーズ

工場長やマネージャ達の意向もあり、いきなり大きな投資をする前に、まずは製造ラインのある部分を使って様子を見てみることになりました。

最初に導入された局所的な簡易アンドン・システムは手動スイッチと異常表示ライトによる簡単なものでしたが、ある程度の効果は得られました。しかし、

  • 大きな工場なのでサポート担当者が異常表示ライトに気づかないことがある(レスポンス時間の短縮につながらない)
  • 異常報告レポートやデータの取得が難しい(手書き作業でデータを記録しなくてはならない。異常の再発防止ができない)

という問題があり、その効果は限定的でした。そこで簡易アンドン・システムからコンピュータ制御によるアンドン・システムへ移行することになりました。

コンピュータ制御によるアンドン・システムには、

  • テキストやメールを使って、サポート担当者のスマートフォンに自動的に連絡することができる(レスポンス時間の短縮)
  • 問題の重要度に従って、 自動的にサポートレベルを引き上げる機能がある(レスポンス時間の短縮)
  • 異常内容や発生時間などを自動的に記録できる(異常報告率の向上と再発防止)
  • 異常報告レポートを自動生成できる
  • SQDCボードを自動表示できる

など、投資に見合う機能があったためです。導入に際しては、

  • アンドン・システム機器の購入と設置
  • アンドン・システムのプログラミング
  • オペレータやサポート担当者のトレーニング
  • 新しい作業標準の作成
  • 導入テスト

などを行いました。

アンドン・システムの導入

CHECK フェーズ

計画から約半年後、コンピュータ制御によるアンドン・システムが安定してオペレータやサポート担当者がアンドン・システムに慣れた頃、再び製造ラインのデータを集計してみました。そこで得られた数値は、

  • 異常発生数 = 11 件/月(平均)
  • 異常報告率 = 95%
  • レスポンス時間 = 3 分(平均)
  • 月間作業ロス時間 = 3 分 x 11 件/月 = 33 分(平均)
  • 納期遵守率 = 93%

と、当初の目標を上回るものでした。

ACT フェーズ

アンドン・システムから得られたデータを基に異常内容を定期的にパレート図に表し、優先順位に従って再発防止策を施して行きました。また継続的なリーン改善活動を実施し、ムダの削減等に努めました。その結果、工場の生産性は向上し、生産コストの削減を計画以上に達成することができました。

まとめ

もともと生産性の低い旧態依然とした工場だったため、リーン(アンドン・システム)導入は予想以上に大きな効果をもたらしました。この効果を維持し、さらに生産性を向上させるためには、アンドン・システム導入時以上の努力が必要になるでしょう。継続的な改善活動を維持することができるかどうかが、この工場の今後を左右することになるでしょう。