先の投稿ではマイク根上さんとの会話の延長として、「ISOとリーンシックスシグマ」について書きました。今回も同じく根上さんとの会話の延長として、「僕がどのようにOffice 365をリーンシックスシグマのプロジェクトの中で使っているのか」ということについて書いてみようと思います。
以下の文章は主にリーンシックスシグマのプロジェクトに関連して書いていますが、リーンシックスシグマに関わらず、どのような仕事にも応用できるものだと思っています。もしお勤めの会社でOffice 365を使っていましたら、ぜひお試しください。
1. Office 365 をワークフローパターンで使う背景
リーンシックスシグマのプロジェクト (DMAIC)には5つのフェーズがあります。どのフェーズも大変なのですが、特に測定(Measure)フェーズと分析(Analyze)フェーズは時間と労力がかかって面倒ですし、十分に気をつけたとしてもデータの信頼性に疑問が出てきたりするので大変な作業です。
実際にモノが目に見えて、次から次へと繰り返しモノが流れてくるような製造ラインならまだ楽なのですが、繰り返しの間隔が長くてモノが見えない事務処理のプロセス改善プロジェクトとなると、データを測定するだけでも骨が折れます。そのためいっそうの事、測定フェーズや分析フェーズなどはやめてしまって、いきなり改善フェーズに飛び込んで、思いついた改善を片っ端から始めたくなるような衝動に襲われることもあります。
そこで少しでも測定フェーズと分析フェーズを楽にしたいと思っているうちに、僕はマイクロソフト Office 365 とその他のソフトウェアを組み合わせて使うようになりました。
これまでいくつかのプロジェクトの中でソフトウェアを連携して使っていると、ある組み合わせのパターン(ワークフローパターン)が出来上がってきました。そしてそのワークフローパターンを他のプロジェクトにも流用することで、だんだんと測定フェーズや分析フェーズが楽になってきたのです。
つまり、Office 365 と他のソフトウェアをワークフローパタンの中で組み合わせて使うことで、測定フェーズと分析フェーズが
- もっと簡単になり、
- もっと早くなり、
- もっと頻繁にデータ収集ができるようになり、
- もっと正確なデータをたくさん収集できるように、
なったのです。
2. ワークフローパターンで使うソフトウェア
ワークフローパターンについて説明する前に、どのようなソフトウェアをワークフローパターンの中で使っているのかを紹介します。
WordとExcel: これら代表的なソフトウェアに関しては、いまさら説明するまでもないでしょう。ワークフローパターンの中で、Wordはレポート出力形式の一つとして使うだけですが、一方Excel は中心的な役割を果たします。共通のデータ形式として中間データを保存するだけではなく、プログラミング(VBA)ツールとして使うこともあります。
SharePoint: モバイル端末やコンピュータから収集したデータは、一旦SharePointサイトに保存するため、Excelと並んでSharePointもワークフローパターンの中では中心的な役割を果たします。 SharePoint はウェブベースのツールなのでデータの共有に優れているだけではなく、ExcelやPowerApps、Flow、InfoPathとの連携にも優れています。
PowerApps: PowerAppsを使えば、簡単にモバイルアプリケーションを作ることができます。SharePointライブラリーからPowerAppsを起動し、SharePointライブラリーと連携するモバイルアプリケーションを自動生成することもできます。誰もがスマートフォンを持つ今、PowerAppsの利用価値が高まっています。
Teams: Teamsはチャットベースのソフトウェアです。メールを使ったコミュニケーションは会話の履歴を辿るのが難しかったり、添付ファイルがどこかに埋もれてしまったりして、作業効率が悪いものです。しかしTeamsを使うことで、チーム内のコミュニケーションが一元管理できるだけではなく、最新のファイルを共有することができます。各Teamsサイトには個別のSharePointサイトが作られるので、ファイル管理がとても便利になります。
InfoPath: 一つの情報(レコード)がさまざまなデータ項目で構成されている場合は、データ入力フォームがあると便利です。InfoPathを使えばSharePointライブラリー用のデータ入力フォームを設計することができます。数ページにまたがるような大きなデータ入力フォームも簡単に作ることができます。
Flow: あるソフトウェアやサービスから、違うソフトウェアやサービスにデータを転送したり、メールを自動的に送ったりするなど、さまざまな自動処理プログラムを簡単に作ることができます。Flowは常にネットワーク上を監視しているので、変化(イベント)があれば、自動的に処理を開始します。
Power BI: ビジネスインテリジェンス(BI)として、 グラフやチャートをウェブ上に動的に表現することができます。利用者はブラウザーからフィルターなどの設定を変えることで、欲しい情報だけを表示させることもできます。データ処理能力に優れているため、ビジネスインテリジェンス・サイトを簡単に作ることができます。
以下、LeanKit、R、RStudio、R Markdown、SurveyMonkey、SAPなどはOffice 365に含まれるソフトウェアではありません。しかしR、RStudio、R Markdownは、無料で使うことができます。
LeanKit: LeanKitはウェブベースのカンバン・ボードです。チームメンバーは各自のタスクをカンバン・カードに置き換えることで、タスクの進捗をカンバン・カードの位置で管理できるようになります。カンバン・カードの動きや位置情報は、Excel形式のファイルで取り出すことができるので、プロジェクト分析などに利用することができます。
R プログラム言語: Rは統計処理用に開発されたプログラミング言語です。少ない記述で、複雑で大量のデータを処理することができます。ワークフローパターンでは、Excelからデータを読み込み、データを処理し、統計分析を行い、Power BI用のデータを生成するためにRを使っています。Rを使わなくても、Pythonなど他のプログラム言語で代用することもできます。
RStudio/R Markdown: RStudioはRプログラム用の統合プログラム開発環境で、RStudioを使えば、Rプログラミングが容易になります。またRStudioからR Markdownを起動することで、Rで分析・処理したデータやグラフから、美しいレポートを生成することができます。R MarkdownはRプログラム用のマークダウン記述言語です。
SurveyMonkey/SAP、その他: 他にもSurveyMonkeyやSAPなどからデータを収集します。最終的にExcel形式にデータを変換できるものであれば、どんなサービスでも利用することができます。特にSurveyMonkeyはアンケート調査に便利なので、僕はよく使っています。
3. ワークフローパターン
次に、これまで紹介したソフトウェアをどのように組み合わせて使っているのか、いくつかのワークフロー(連携)パターンを紹介していきます。
「データ収集のワークフローパターン」は4つあります。どのワークフローパターンも最終的にはExcel形式でデータを取り出します。
「データ分析とデータの表現のワークフローパターン」は1つだけです。データ収集ワークフローパターンで取り出したExcel形式のデータを、さまざまな目的で分析し、表現します。
3.1 データ収集のワークフローパターン1
モバイル端末を使ってデータを収集したいときは、このパターンを使います。
まずはSharePointライブラリーを用意して、ライブラリに収集するデータ項目を決定します。ライブラリーのデータ設計が終われば、それを利用してモバイルアプリケーションをPowerAppsを使って生成します。
PowerAppsで生成したモバイルアプリケーションを、チームメンバーが各自のモバイル端末にダウンロードし、そのアプリケーションからデータを入力してもらうようにします。
モバイル端末から入力されたデータは自動的にSharePointライブラリーに保存されていきます。
データは定期的または必要に応じてSharePointライブラリーからダウンロードし、Excel形式のファイルとして取り出します。クエリーを使えば、Excel形式ファイルのダウンロードは簡単です。
3.2 データ収集のワークフローパターン2
ひとつのレコードがたくさんのデータ項目で構成されているときは、このパターンを使います。
まずはInfoPathを使ってSharePointライブラリー上にデータ入力フォームを作ります。チームメンバーはデータ入力フォームに沿ってページを切り替えたり、データを選択したりすることができるようになるので、データ数が多くても簡単に入力することができるようになります。
データ入力フォームに記入されたレコードはSharePointライブラリーに保存されます。またデータ入力フォームはレコードの編集にも使えます。
データは定期的または必要に応じてSharePointライブラリーからダウンロードし、Excel形式のファイルとして取り出します。クエリーを使えば、Excel形式ファイルのダウンロードは簡単です。
3.3 データ収集のワークフローパターン3
個々のチームがそれぞれのプロジェクトに携わる一方、たくさんのチームでファイルやデータを共有したときは、このパターンを使います。
まずはTeamsを使って、チームごとにコミュニケーションの場を作ります。チーム内の会話やファイル、データの共有は、Teams上で行います。
一方、TeamsはそれぞれのチームごとにSharePointサイトを構築するので、そこに保存されたファイルやデータはチーム以外の人はアクセスすることができません。またファイルやデータがチームごとに分散されてしまうので、社内のファイルやデータ管理が煩雑になります。
そこでチームごとに構築されたSharePointサイトに保存されているファイルやデータを、Flowによって自動的に中央のメインSharePointライブラリーに転送するようにします。
中央のメインSharePointライブラリーにすべてのファイルやデータのコピーが集められるので、ファイルやデータの一元管理ができるだけではなく、たくさんのチームでファイルやデータの共有が進みます。
ここでも同じく 、データは定期的または必要に応じてSharePointライブラリーからダウンロードし、Excel形式のファイルとして取り出します。クエリーを使えば、Excel形式ファイルのダウンロードは簡単です。
3.4 データ収集のワークフローパターン4
Outlookをメールだけに使うのは、とてももったいないことです。メールボックスは情報の宝庫でありビックデータです。これを使わない手はありません。
OutlookのメールはExcel形式のファイルとしてダウンロードすることができます。一旦Excel形式でタウンロードしてしまえば、後はRプログラムなどを使ってテキスト分析(マイニング)することで、さまざまな情報が取り出せます。
その他、LeanKitからはプロジェクトの進捗情報、SurveyMonkeyからはアンケート情報、SAPからは過去のデータや更新履歴などのデータを収集することができます。
3.5 データ分析とデータ表現のワークフローパターン
データ収集のワークフローパターン1から4では、収集したデータを最終的にはExcel形式のファイルとしてダウンロードしました。ダウンロードした後は、Excel形式ファイルをRプログラムを使ってデータ分析したり、グラフを描いたりするだけです。
Rプログラムを使えば、大量のデータを簡単なプログラムで一括処理することができます。また、ありとあらゆる統計分析も可能です。美しいグラフ表示機能も充実しています。
RプログラムはRStudioから起動され、また同時にR Markdownを使うことで、Rプログラムで描いたグラフなどをレポートとして生成することができます。
Power BIを使えば、動的に更新されるグラフやチャートを ウェブ上に表現することができます。動的なグラフやチャートを使えば、利用者はフィルター等の設定を変更するだけで、必要な情報だけを取り出すことができるようになります。
4. ワークフローパターンの事例: 作業時間の分析
一旦このようなワークフローパターンを作ってしまえば、あとは新しいプロジェクトで何度も再利用することができます。ここではデータ収集のワークフローパターン1を使った事例を紹介します。
この事例は、事務処理プロセスの改善を目的としたプロジェクトです。ある事務処理に時間がかかることが問題となっていたため、スタッフのメンバーがどの作業にどれだけ時間をかけているのかを測定することになりました。しかし多くのスタッフが携わる複雑な事務処理だったため、個々のスタッフの個々のタスク作業時間を測定することは現実的ではありませんでした。
そこで第三者がタスク作業時間を測定するのではなく、各スタッフからの自己報告としました。0.5時間を1単位とし、どのタスクに何単位の時間をかけたのか、遂時報告してもらうことにしたのです。
そして僕の役割は、スタッフに負担をかけずに、できるだけ多くの、できるだけ正確なデータ(作業時間)を収集することでした。
まずはPowerAppsを使ってモバイルアプリケーションを作り、それを各スタッフのモバイル端末にインストールしてもらい、いつでもどこからでも、作業時間を報告してもらうようにしました(データ収集のワークフローパターン1)
収集したデータは毎週分析し、グラフとして表示(Power BI)し、スタッフと共有しました(データ分析とデータ表現のワークフローパターン)。
結局29人のスタッフから3か月かけてデータを収集したので、ビッグデータと言ってもよいほどのデータ量を収集することができました。
スタッフは休み時間やタバコの時間、ちょっとした合間にデータを入力してくれたようです。結果としてあまり手間もかけず、スタッフの負担にもならず、良質のデータを収集することができ、無事に測定フェーズと分析フェーズを終えることができました。