エッセイ: 勤勉な日本とリーンシックスシグマ

「勤勉な国は生産性が高いはず」 生産性本部会長のコメントに「勤勉にサービスしすぎるからダメなんだよ!」と専門家落胆、という記事を先ほど読み、共感するところがあったので、少し書いてみようと思います。

記事によると、2014 年度の日本の実質労働生産性上昇率がマイナス 1.6 %だったそうです。そして OECD 加盟国 34 カ国中 21 位、主要先進 7 カ国では最低だったそうです。

それに対して、日本生産性本部の茂木友三郎会長のコメントが、

「日本は勤勉な国で、生産性が高いはずと考えられるが、残念な結果だ」
「労働人口が減少する日本が国内総生産600兆円を達成させるためにも、生産性の向上が必要で、特にサービス産業の改善が求められる」

だったそうです。このコメントに対して、ネットから多くの疑問の声が寄せられているというのが、この記事の趣旨でした。

確かに僕も疑問が沸々と沸いてきました。勤勉性と生産性が直接関係しているとは思えないからです。もし勤勉だから生産性が高いと考えているのであれば、生産性を上げる手法・方法を「勤勉」に導入した場合だけです。

世界でも生産性の高い企業の一つであるトヨタは、社員が無駄な残業をしているから生産性が高いのではありません。生産性を上げる手法(TPS: Toyota Production System)を勤勉に改善し、勤勉に実践しているからこそ生産性が高いのです。

日本人は確かに真面目で勤勉だと、僕も思います。ここでの勤勉は「努力を惜しまない」という意味です。しかし残念なことに、勤勉イコール残業、勤勉イコール頑張り、という生産性の低いものに努力が消費されてしまっています。また、それを美徳と考える風土があります。中でも茂木会長もおっしゃる通り、サービス産業はその最たるものなのでしょう。

記事は

生産性を高めるためには「勤勉性」や「頑張り」といった精神論的なアプローチではダメということだろう。

と結んでいますが、では一体どうすれば良いのでしょうか。僕は2つ思いつきます。まずはマネジメントを何とかすることです。そしてその後にリーンシックスシグマを導入することです。

「日本の企業のマネージャーは本当に可哀想だなあ」と思うことが、時々あります。なぜならマネジメントの教育を受けずに、実績や年功だけでマネージャーになるからです。欧米(特に米国)では、マネジメントは一つの専門職であり、マネジメントの教育を受けた人がつくポジションです。日本の場合、その専門職に何のマネジメント教育も受けてない人がつくのですから、本人にとっても、部下にとっても、会社にとっても不幸です。

幸い日本の場合、部下が勤勉(努力家)なので、マネジャーが正しいマネジメントを行わなくても、なんとなく仕事が回ってしまいます。そしてマネージャーがマネジメントを学ぶことなく、精神論や根性論に入っていき、ますます生産性が下がっていきます。

僕もかつてこんな経験があります。自分で計画して自分で予定通り仕事を完了させ、そして帰宅しようとしたところ、上司から「みんなが残っているのだから、お前も残れ」と言われたことです。この上司は、それがチームワークであり、マネジメントだと思っているようでした。

米国ではこうは行かないでしょう。基本的に部下は残業はしないので、マネジャーは効率的にマネジメントをして仕事を回す必要があります。当然、正しいマネジメント手法が必要になってきます。もし精神論や根性論を振りかざせば、部下はとっとと会社を辞めていきます。

日本の生産性の低さは、結局のところ、マネジメントの質の悪さだと、僕は思っています。まずはここから手を付けるべきです。せめてマネジャーは、MBA 取得者か、PMI(Project Management Institute)が定める PMP(Project Management Professional)の資格者が望ましいと思います。

生産性を上げるには、手法や方法が必要です。場当たり的な仕事ではなく、確立された問題解決のためのフレームワーク(枠組み)の中で仕事をする必要があります。僕はリーンシックスシグマが最も優れた生産性を上げるためのフレームワークだと思っています。

二つの写真を目に浮かべてください。一つはトライアスロンの水泳の写真です。選手達がぐちゃぐちゃと混在して泳いでいます。頑張っている割にはスピードが遅い、それがトライアスロンの水泳です。もう一つの写真は競泳プールでの水泳です。選手達はコースの中で最高の泳ぎを見せます。世界記録が出るのは、競泳プールです。

リーンシックスシグマは競泳プールのようなものです。頑張って泳ぐのなら、絶対にこちらの方が生産性が高いに違いありません。

日本の生産性の低さと、リーンシックスシグマの普及率には何か関連性があるような気がします。欧米、インド、シンガポールなどでは普及しているリーンシックスシグマですが、何故か日本では知名度が低く、まったくと言って良いほど普及していません。

欧米流がすべて正しいとは思いませんが、せめて日本のマネジメントは生産性を上げる方法論を研究し、導入のためにその勤勉性を活かすべきです。生産性を上げる方法はいくつもありますが、その中でもリーンシックスシグマが僕の一番のお奨めです。

追記:やはり元データにあたらないといけないと思い、OECD のデータを探してみました。恐らく元記事はここから来ていると思います。

労働生産性と有効活用

リーンシックスシグマの普及率と労働生産性には正の関係があると仮定したのですが、この OECD のデータを見る限り、そうとは言えません。だってリーンシックスシグマ先進国の米国でさえ、労働生産性においては中位くらいなのですから。リーンシックスシグマが普及すると、その国の労働生産性が上がるという議論はちょっと無理があるようです。リーンシックスシグマだけでなく、他の要素も考える必要があります。