エッセイ: 時にはひねりが必要なことも

先の投稿で、リーンシックスシグマはゲーム前のジャンケンのようなものだと書きました。プロジェクトの前に、問題の性質に応じて3つのフレーワークのうちから、最適な問題解決手法を選ぶからです。3つのフレームワークには、(1)リーン、(2)シックスシグマ(DMAIC)、そして(3)DFSS(Design for Six Sigma)があります。

既存のプロセスを、継続的に改善しながら問題を解決しようとする場合は、僕はリーンを選びます。リーンはまた、小さなチームから大きな組織まで柔軟にかつ幅広く対応できるのが魅力です。リーンでプロジェクトを始めることは比較的簡単なのですが、問題を解決するためにはリーンの原理や哲学を理解していることや、チームの力が何よりも必要で、チームに実力がない場合は、成果が得られないこともあります。

シックスシグマはリーンと同じように、既存プロセスの問題を解決したり、現在作られている製品の品質向上などのために使われます。しかしリーンとは大分異なり、シックスシグマではデータ分析(統計的手法)の比重が高まります。データ指向であるため、解決すべき問題の範囲(スコープ)や、その目標値もあらかじめ明確にします。

シックスシグマでは、問題を明確にすることが一番難しく、もし問題の定義を間違うと、時間やコストの割には、具体的な効果が得られないということが起こります。シックスシグマは、プロジェクトを正しく設定することさえできれば、実行は比較的簡単です。

しかしシックスシグマでは、どうしても後追いになってしまいます。新製品を開発する場合などは、製造を実際に開始してからシックスシグマで品質を向上させていては、会社がもちません。実際に製造段階に入ってから品質レベルを6σに持っていくことはぼぼ不可能です。また製品コストを製造段階に入ってから下げることにも限界があります。そのため、新製品の開発段階からシックスシグマの手法を取り入れて、堅牢で(Robust)で信頼性の高い製品を開発する手法が必要になります。そこで使われるのが DFSS(Design for Six Sigma)というフレームワークです。

しかし、必ずしもこれらの定義どおりに、プロジェクト遂行のためのフレームワークを選択できるとは限りません。適切なフレームワークを選択できたとしても、解決すべき問題はまちまちなので、教科書通りにフレームワークが使えるとは限られません。

フレームワークの選択

最近の例ですが、品質管理部のあるマネージャーから”部下に DFSS のブラックベルトを取得させたい”という依頼を受けました。DFSS ブラックベルト認定には、DFSS専門のトレーニングだけでなく、いくつか実際のプロジェクトを遂行する必要があるため、部下のプロジェクト内容について僕に相談をしてきたわけです。

計画しているプロジェクトの内容は、品質管理データベースの改良とデータベース業務の改善というものでした。品質管理部のプロジェクトであり、かつ既存プロセスの改善だったこともあり、プロジェクト遂行にはシックスシグマ(DMAIC)が最適なフレームワークだと僕は思いました。

しかしマネージャーは「ぜひ DFSS で認定を」というたっての希望だったので、DFSS のフレームワークを使って問題を解決することになりました。プロジェクトの内容も少しひねって、データベース業務の改善ではなく、「品質管理データベースの設計とデータベース業務の開発」というようにしました。これで DFSS のツール群を使って、新しいデータベースの「設計と開発」を行うことができます。

リーンシックスシグマのツール群やフレームワークは柔軟性が高いので、少しひねりを加えることで、様々な業界において、多様な問題を扱えるようになります。上記の例では、新製品開発で主に使われる DFSS を品質管理のプロセス改善に用いました。また製造業で一般的に用いられていると思われがちな DFSS も、実際は銀行などの金融機関で金融商品の開発などにかなり多く使われています。

他にも、病院・医療、流通・倉庫、小売販売など様々な分野で、ツールを少し工夫したり、フレームワークを企業・業界・問題内容に合わせてカスタマイズすることで、様々な場面でリーンシックスシグマが活用されています。