業務プロセス改善に関する実用書を読んでいると、大抵の場合はフラストレーションが溜まってきます。フラストレーションの理由は、本に書かれてある素晴らしい理論や実例を、自らの職場とつい比べてしまうためです。”どうしてうちの職場はこうも駄目なのだろうか”などと考え始めると、本を読み進めるにつれてフラストレーションが次第に溜まってくるのです。
一方この本は実際の製品開発現場の根本的な問題を理解(同情)して、その問題を解決する方法を丁寧に示してくれているので、他の業務プロセス改善本にあるようなフラストレーションをそれほど感じませんでした。
本の概要(裏表紙から)
Managing The Design Factory / A Product Developer’s Toolkit
- By Donald G. Reinertsen in 1997
- ISBN-10: 0-684-83991-1
- ISBN-13: 978-0684839912
ドナルド・レインナーセン氏によって紹介されたこの新しいコンセプトと実用的なツールは、製品を速やかに市場に送り出したいと願うすべての製品開発に携わる人々とって、とても有益なものになるに違いない。
本書は待ち行列理論や情報管理、システム理論、組織設計そして危機管理を統合することで、世界で通用する製品開発プロセスの原理を説明する。その結果として、本書で説明する方法は品質とコスト、そして納期を最適化することだろう。レインナーセン氏はこの方法や実例を、様々な業種を代表する多くに企業と共に働くことにより導き出した。
深い熟考のもとに導き出されたこの新しい理論は、従来の製品開発手法に一石を投じるに違いない。
「最善の方法というものはない」「最善の方法というのは魅力的かもしれないが、一方では危険でもある」とレインナーセン氏は書いている。最善と思われる手法を比べることで導き出したルールや法則を書き記した本は多いが、一方本書は様々な状況に対応できる実用的なツール類に重点を置いて書かれている。
多くの実用的なテクニックや具体例、確立した理論をもとに書かれた本書は、製品開発の真のツールキットとなるだろう。〔ママ〕
あくまで個人的な書評
紹介欄ではツールキットという言葉を使っていますが、リーンシックスシグマで使うようなツール類ではありません。具体的なツールというよりも、考え方の切り口を紹介するに留まっています。
僕は個人的に、リーンを殆ど説明できる”待ち行列理論”が好きなのですが、本書も待ち行列理論を使って製品開発過程の改善を説明しており、その点が大変気に入っています。待ち行列理論を使ったプロセス改善本は他にもたくさんありますが、本書は製品開発プロセスに限定してさらに深く内容を掘り下げているので、他の本に比べて濃い内容になっています。
製品開発プロセスの根本に関わる内容なので、本書で紹介されているテクニックを実際の職場に応用しようとすると改善(カイゼン)ではすまず、むしろ改革(カイカク)になってしまうことでしょう。実際僕も本書で紹介されている内容を自分の職場に合うように一旦調整してから職場でプレゼンテーションしてみましたが、その改善内容が職場に大きな影響(変更)を与え過ぎるため、あまり良い評判は得られませんでした。
本書の内容は一介の社員が理解し提案するものではなく、むしろ社長がまず率先して読み、理解し、そして社長の影響力を使いながらトップダウンで製品開発部で実施していくものだと思います。
それでも本書は、理論的に製品開発プロセスを改善させたいと思っている人には最適の本だと思います。