著者の Ronald Mascitelli さん、かつて僕の努める会社にもコンサルタントとして来たようです。まだ僕が会社でリーンシックスシグマの仕事を始める前のことだったので、Mascitelli 氏が来ていたことを僕は全く知りませんでした。
のちに僕が製品開発部にリーンを導入しようとした時に、参考のために購入したのがこの本です。そしてこの本を同僚に見せた時、「ああ、ロンさん本ね」という返事が返ってきました。それでやっと、彼がかつてうちの会社にもコンサルタントとして訪れていたことを知るようになりました。
ロンさんは当時、様々な良いことをうちの会社で講義されたようです。しかし残念ながら、何一つ根付いてはいませんでした(それはちょっと言い過ぎか?)。なぜなら、もしロンさんの教えがうちの会社に根付いていたのなら、僕がこの本を購入する必要もなかったし、まして僕が製品開発部にリーンを導入しようなどとも考える必要がなかったからです。
また残念なことに、ロンさんをコンサルタントとして製品開発部に招いた当時の部長は、6年ほど前に定年退職されました。もう少し早く僕がリーン製品開発を考えていれば、きっとロンさんにも会えたし、部長と一緒に面白い仕事ができたかもしれません。それを考えると、ちょっと残念な気持ちがします。
本の概要(裏表紙から)
Mastering Lean Product Development / A practical, Event-Driven Process for Maximizing Speed, Profits, and Quality
- By Ronald Mascitelli in 2011
- ISBN-13: 978-0-9662697-4-1
- ISBN-10: 0-9662697-4-8
製造業での競争が激しくなるにつれて、卓越した新製品開発を行うことが不可欠な任務となりました。著名な著者であり教育者、そしてリーン製品開発の専門家である Ronald Mascitelli 氏が、イベント志向のリーン製品開発を通じて、発明。効率的な問題解決、知識の創造、そして組織的な学習から始め、成功率の高い迅速な製品化まで、読者を導いていきます。
すでに証明されたこの実践的なアプローチは、顧客の価値、利益率、製品開発期間、品質など、すべてのバランスをとることができます。
このイベント志向のリーン製品開発フレームワークは、以下のトピックを含んでいます。
- 高い利益率とマーケットでの成功をもたらす新製品アイデアの選択と優先順位の決め方
- 製品開発リソースの最適化と、複数のプロジェクト間でのリソース矛盾の解決
- あらゆる開発フェーズで協働できる実践的で柔軟なイベント志向の開発プロセス
- 日々の開発を管理するビジュアル・ワークフロー管理
- システム的に新製品のアイデアを取り込むVOC(Voice of Customer)
- 開発者自身が責任を持つプロジェクト計画の作成
- A3フォーマットを使った問題解決方による、リスク管理
- 将来のプロジェクトのために高い価値をもたらす知識と学習の管理
- 新製品の製品化と高い製造品質をもたらす製造プロセス準備(Production Process Preparation – 3P)〔ママ〕
あくまで個人的な書評
リーンについて良く知っている読者なら、リーンの理念や原理(価値、価値の流れ図、フロー、プル、改善、無駄の排除、JIT、WIP、など)と、この本で唱えられているリーン製品開発手法が、水面下で繋がっていることが分かり納得するかもしれません。しかしリーンについて良く知らない読者にとっては、この本の内容についてはあまり驚きを持たないのではないでしょうか。というのは、この本の中で紹介されている”個別の”手法自体は別に新しいものではないからです。
”個別の”、と強調したのは、それぞれの手法に新しさを感じなくても、もしそれらが「価値の流れ」として、システムとして連動しているとすれば、別の意味を持ってくるからです。
そもそもリーンは、徹底的に価値の創造と、プロセスにおける無駄の排除にこだわった手法です。作り上げた価値を、顧客に滞りなく届けるための手法がリーンであり、設計開発でもその理念と原理が当てはまります。そのため、既存の手法が「価値の流れ」として連動したものが、この本が唱えるリーン製品開発の趣旨ではないかと僕は思います。
例えば、「イベント志向」です。設計開発業務を幾つかの工程に分け、それぞれの工程内でイベント(レビュー検査など)を設け、次の工程へ移行できるかどうかの関門とすることなどは、別に新しいアイデアではありません。多くの企業がそのような設計開発工程を定義しているのではないでしょうか。
しかし、それぞれの開発工程を製造工程と置き換えて考えてみると、「イベント志向」の設計開発が違ったものに見えてきます。それぞれの工程で追加していく価値はとは何か、WIP(Work in Process)はどうか、流れを妨げるものは何か、One-Piece-Flow、Product Mix など、リーンの理念と原理が散らばっています。
ただこの本では、そのようなリーンの理念・原理について深く触れないため、個別の手法に注目してしまうと、陳腐なものに感じてしまいます。この本を理解するには、まずリーンの理念や原理について知っておかなくてはならないでしょう。そうでないと、仮に個別の手法を導入したとしても、成果が得られないばかりか、持続すらしないと思うからです。
先に「うちの会社では、ロンさんの教えが根付いていない」と書きましたが、恐らく当時は、リーンを理解する前にロンさんをコンサルタントとして呼び、そしていくかのツールを使ってみただけ、だったのではないかと想像します。
この本は、良くも悪くも、とても読みやすく簡単に書いてあります。それ故に、簡単に導入できそうな感じがするのですが、リーンを原理としている以上、実際は難しい。そう感じさせる本です。