書評: 世界のエリートはなぜ「美意識」をきたえるのか?

先日、妻がたまたま買ってくれた本です。「本屋で面白そうだから買ってみた。よかったら読んで見れば」と何気なく手渡され、そのまましばらく机の上に置いてあったのですが、雨の降る日曜日、家で特にやる事もなかったのであまり期待せず読み始めました。

ぼんやりとした気持ちで読み始めたのですが、ページをめくる度にだんだんと惹きつけられていき、ついには最後まで一気に読んでしまいました。この本はその陳腐なタイトルに似合わず、実際はとても斬新な切り口や視点を提供してくれる大変面白い本だったからです。

またこれまでリーンシックスシグマに感じていた漠然とした疑問への答えが得られるのではないかという期待から、最初から最後まで読むことができました。

本の概要(裏表紙から)

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? ー 経営における「アート」と「サイエンス」

  • 山口 周 著
  • ISBN: 978-4-334-03996-7
eliete in the world

論理的思考・MBA では戦えない・・・「直感」と「感性」の時代

グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込む、あるいはニューヨークやロンドンの知的専門職が、早朝のギャラリートークに参加するのは、虚仮威しの教養をみにつけるためではありません。彼らは極めて功利的な目的のために「美意識」を鍛えている。なぜなら、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない、ということをよくわかっているからです。では、そのように考えるぐたいてきな理由はなんなのでしょうか。(本文より)

あくまで個人的な書評

本書は美術や哲学、倫理という視点から、現在のビジネスに何が必要なのかを説明してくれています。それは哲学と美術を修めたビジネスコンサルタントというユニークな経歴を持つ著者だからこそ見えた視点だと思いました。この本は芸術から歴史、社会問題からビジネスまで、日本だけではなく、世界中の例を用いながら大変解かりやすく現代社会の問題を解きほぐしてくれています。

著者がもっとも伝えたい論点は裏表紙にもあるとおり:

  • 今日は VUCA (Volatility = 不安定、Uncertainty = 不確実、Complexity = 複雑、Ambiguity = 曖昧)の時代である。
  • このように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをするには、「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では不十分である。
  • なぜなら論理的・理性的な情報処理スキルには限界があり(方法論としての限界)、そこには「正解のコモディティ化」や「差別化の消失」という問題があるから。
  • 論理や理性で考えてもシロクロのつかない問題については、むしろ「直観」を頼りにした方がいい。

そこで世界中のエリートたちは、極めて功利的な目的のために「美意識」を鍛えている。ということでしょうか。

僕にとって「サイエンス重視の意思決定」といえば、リーンシックスシグマです。リーンシックスシグマはまさに著者が指摘する「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた問題解決方法だからです。

問題解決の成功率を高めるためにもリーンシックスシグマはとても有効な方法ですが、確かに著者が指摘するような「正解のコモディティ化」があるかもしれません。つまりリーンシックスシグマには典型的な正解があり、それが「差別化の消失」を導いているのではないか、という指摘です。

ではリーンシックスシグマは役に立たないのでしょうか。

著者は「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた問題解決法が悪いと言っているのではなく、「論理や理性で考えてもシロクロのつかない問題については、むしろ「直観」を頼りにした方がいい」と言っています。つまり僕にとっては「まずリーンシックスシグマから始め、もしリーンシックスシグマを使ってもシロクロのつかない問題だったら、むしろ直観や美意識によって結論を下した方がいい」と捉えることができました。

というのも、確かにリーンシックスシグマのプロジェクトにおいては、様々なツール類を使ったとしてもシロクロはっきりとした答えが得られないことがよくあるあらです。その時は「罪悪感」を感じながら、エンジニアとしての「直観」を使って判断することになります。

「罪悪感」の正体は、ツールを使って得た答えをそのまま判断に使っていないところから来ています。しかしこの本を読んでからは「罪悪感」を感じなくても済むようになりました。むしろエンジニアとしての直観に自信を持つことができるようになりました。