書評: 統計学が最強の学問である

「将来はどんな職業に就きたいのか」と高校生になる息子に聞いたところ、「エンジニアかな」と答えました。「それは良い選択だと思う。でも一体何のエンジニア?バイオから機械、それから原子力からコンピュータまで、ありとあらゆる分野でエンジニアリングの仕事が存在するけど、何のエンジニアになりたいのか」と改めて聞いたところ、「コンピュータ・プログラマーかな」と答えたので、「給料はどんどん安くなるし、グローバルな競争はどんどん激しくなるし、技術の移り変わりも速すぎる。コンピュータ・プログラマー、それだけはやめておけ」と言いました。その代わりに「数学が得意なのだから、統計を使う仕事に就け」と薦めました。統計を使う仕事を息子に薦めたのは、この本が無関係ではありません。

僕が統計学を最初に学んだのは大学の単位でした。正直に言って授業は全く面白くありませんでしたし、学んだことを仕事で活かすこともありませんでした。しかしリーンシックスシグマを通じて統計学を再勉強し、プロジェクトで統計学を実際に活かすようになってから、やっと統計学の面白さが分かり始め、今ではリーンシックスシグマで統計学を使えば使うほど、ますます統計学に惹かれるようになりました。そしてこの本さらに僕の統計学の興味を広げてくれました。

本の概要(裏表紙から)

統計学が最強の学問である

  • 西内 啓 著(ダイヤモンド社 2013年)
  • ISBN: 978-4- 478-02221-4
Statistics is the best science

データ社会を行きぬくための武器と教養 – Literacy for the Next Generation – まずこの本で「統計学の全体像」を理解する

あえて断言しよう。あらゆる学問のなかで統計学が最強の学問であると。どんな権威やロジックも吹き飛ばして正解を導き出す統計学の影響は、現代社会で強まる一方である。「ビッグデータ」などの言葉が流行ることもそうした現状の表れだが、はたしてどれだけの人が、その本当の魅力とパワフルさを知っているだろうか。本書では、最新の事例と研究結果をもとに、今までにない切り口から統計学の世界を案内する。

Google のチーフ・エコノミストであるハル・ヴァリアン博士は、2009 年 1 月にマッキンゼー社の発行する論文誌においてこう語った。”私はこれからの 10 年で最もセクシーな職業は、統計家だろうって言い続けているんだ” I keep saying the sexy job in the next ten years will be statisticians.

あくまで個人的な書評

この本は僕が大学の授業で学んだような(退屈な)統計学の本ではありません。統計学が実際にどのような分野でどのように使われているのかを、面白い実例を交えながら、統計学の楽しさを紹介してくれています。また統計学がどのように生まれてそして発展してきたのか、その歴史的背景なども楽しく紹介してくれており、少し統計学をかじっていた僕としてはとても興味深く読むことができました。

今までに読んだ統計学に関する本の中で最も面白い本です。そのため僕がブラックベルトやグリーンベルトのトレーニングで統計学を社内で教える時など、余談としてこの本の中から面白い事例を引用することが度々あるくらいです。

この本の中で紹介されている統計テクニックはそれほど難しいものではありませんが、それでも様々な分野で実際のビジネスに使われていることは、この本を読むまであまり知りませんでした。またリーンシックスシグマで使う統計テクニックも、他のビジネスで使う統計テクニックも、基本的には同じということを知ることができたのは、この本から得た大きな収穫でした。

著者の西内氏は、自らのことを「統計家」と呼ばれています。僕から見れば立派な「統計学者」にふさわしい方なのですが、あえて「統計家」としているところが面白いと思いました。西内氏が「統計家」であられるのであれば、さしずめ僕はそこらの「統計屋」と言ったところでしょうか。

この本には、統計学を使っている様々なビジネス分野が紹介されています。僕が息子に統計を扱う仕事を薦めたのも、それが理由です。つまり統計は”つぶし”が利くと思ったからです。統計を扱うことができれば色々な分野で仕事ができるので、たとえ今自分の進路が決まっていなくても、後から自分の好きな分野を決めて進んでいくことができるのではないかと思ったからです。

ビックデータの時代になり、統計学者(Statistician)や統計士だけでなく、データサイエンティストやデータアナリストといった新しい職業が様々な分野で増えています。自分の得意な専門分野を持たないと単なるデータを扱うプログラマ(データアナリスト)になってしまう危険性もあるのですが、概して統計を扱うこれらの職業は今後は安泰だと思います。

本とは関係ありませんが、統計を扱う職業を息子に薦める「リーンシックスシグマの統計屋」としては、このビデオが大好きです。古いビデオですが、何度観ても飽きません。