エッセイ: 発明のあるところ

リーンシックスシグマを知らないエンジニアにリーンシックスシグマ、特に DFSS を薦めると、笑って無視されるか、さもなくば色々理由を挙げて頭から拒否されたりすることがあります。両者に共通しているのは、リーンシックスシグマについて殆ど何も知らない、ということでしょうか。もっとも、人は知らない事を無視したり、拒絶したりするものなので、特に驚くことではないのですが。

色々な理由を付けて否定する人は、少しはリーンシックスシグマについて見聞きしたことがあるようです。リーンシックスシグマが否定されるのを聞くと、正直なところ多少はがっかりはしますが、一方で否定の理由を聞くのは案外楽しく、また考えさせられるものです。今日は「リーンシックスシグマを使うと発明や発見ができない」という拒絶理由を聞いたので、これについて考えたいと思います。

どうも発言の趣旨は、「考え方が強制されて自由がないから、発明や発見ができない」ということのようで、更に突っ込んで聞いてみると、どうもリーンシックスシグマのことを、人間をロボット化するか、またはロボット扱いする非人道的なツールだと思っている節がありました。もし本当にそうなら、なぜ主要なリーディング企業がリーンシックスシグマを活用しながら新しい製品開発や発明を続けることができるのでしょうか。

リーンシックスシグマには、新しい発見や発明を促す多くのツール類が存在します。ツール類をプロジェクトの各段階で用いることで、現在の問題を解決するだけでなく、将来使える製品アイデアや技術革新の種を見つけることができます。

新しい発見や発明に繋がるリーンシックスシグマのツール類といえば、例えば以下のようなものがあります。

  • 顧客要求分析(VOC: Voice of Customer)
  • ブレインストーミング
  • KJ法(Affinity Diagram)
  • コンセプト形成(顧客満足モデル)
  • コンセプト選択(Pugh Matrix、Concept FEMA、など)
  • 品質機能展開(QFD)の相関モデル
  • TRIZ
  • 故障モードとその影響の解析(FMEA)における検出可能性
  • 実験計画法(Design of Experiments)
  • 将来の物と情報の流れ(Future Value Stream Map)
  • 改善活動
発明のあるところ

これらのツールは、「グループでのアイデア創造活動」を支援します。ツール自体がグループの議論を刺激し、違った角度からアイデアを導いたり、考えを深めたりすることを助けてくれるからです。

故障モードとその影響の解析(FMEA)を例にとると、例えば検出可能性を検証する際に、今は故障モードを検出する方法がなかったとします。検出できない故障は、「マニュアルに注意を記述する」などの応急対応も考えられますが、もしかしたら、検出することが新しい発見や発明につながるかもしれません。検出できない故障モードのところに、発見や発明があります。

またコンセプトの選択では、選ばれなかったコンセプトにこそ発見や発明があります。なぜならコンセプトの選択では最もリスクの少ないものが選ばれる傾向があるので、リスクを伴う発見や発明は見逃されるからです。

そのような見逃されたアイデアや事象を丁寧に拾い上げることで、将来の新しい発見や発明に繋がります。

「リーンシックスシグマは自由がないから、発明や発見ができない」と言ったエンジニアですが、実は彼の本音は大体察しがついています。リーンシックスシグマに自由がないのではなく、グループで議論しながらプロジェクト進めるリーンシックスシグマのやり方が、彼は好きではないのです。「グループ活動に自由がない」というのが、彼の本音だと思います。一匹狼的なエンジニアほど、リーンシックスシグマや DFSS を嫌うのかもしれません。