リーンシックスシグマのマスターブラックベルトをしていると、自然と多くのプロジェクトに関わるようになります。多くのプロジェクトを見ていてつくづく思うことは、プロジェクトを通じてチーム作りを経験することは即ち、リーダーシップを学ぶための最適な機会だということです。
構成員が(ある程度)固定していて、もしかしたら何十年も変わらない普通の組織の管理職とは違い、プロジェクトのリーダーは半年から数年ごとに新しいプロジェクトを任されます。そのたびに、
- 異なった状況に対応するための機会が与えられる
- 新たな創意工夫を試すことができる
- プロジェクトの数だけ何度も挑戦できる
など、面白いことがたくさんあるのですが、特に「失敗から学んだことを次の機会(プロジェクト)ですぐに活かすことができる」というところが リーダーシップを学ぶ上で 、通常の組織の管理職とプロジェクトのリーダーとでは大きく違う点ではないかと思います。
リーダーシップの定義
今やビジネス系の雑誌やウェブサイトは、リーダーシップに関する記事で溢れかえっています。これでもか、これでもか、と言わんばかりにリーダーシップのセミナーやコンサルティング・サービスの広告が掲載されています。それらは少しでも違った特徴を出すために様々なリーダーシップ論を展開しているのですが、ここでは簡単にリーダーシップを「目的を達成するためにチームを組織・運営し、成果を出す能力」としておきます。
リーダーシップが「チームを組織し、運営し、そして成果を出す能力」である以上、やはりリーダーシップは何度もチームを組織したり、何度も性格の異なったチームを運営したり、何度も成果を出したり(出せなかったり)して、そのような成功や失敗の繰り返しの中からようやく得られる能力だと思うのです。
チームの成長と共に学ぶ
またリーダーシップを学ぶということは、もしかしたら子育てをする親が、子の成長と共に、人間として成長していく事と似ているのかもしれません。なぜならリーダーシップの場合は、リーダーはチームの成長と共にリーダーシップを学ぶからです。
では、チームはどのように成長していくのでしょうか。
心理学者のタックマン(B.W. Tuckman )は、チームの成長には5段階あると唱えています(タックマン・モデル、または組織進化モデル)
1. 形成期
チーム・メンバーたちは、プロジェクトの目的やゴールが彼ら自身にとって何を意味するのか、それを知ろうと模索します。チームには新しい環境が与えられ、それぞれのメンバーは新しい人間関係や新しい期待を持ちますが、チームの成長にとっては、これら新しい環境が最初の躓きとなります。
2. 混乱期
チーム・メンバーたちは自分の意見を主張し始め、時には他のメンバーの意見と対立します。なぜならチーム・メンバーたちは今まで培ってきた自らの経験をもとに考えるからです。
チーム・メンバーたちが互いに協力や協調するということはまだありません。むしろ彼らはプロジェクトの目的やゴールを自分なりに再定義しようとしたり、時にはリーダーのリーダーシップを試そうとしたりします。
3. 統一期
チーム・メンバーたちは、個人ではなく、むしろチームの一員としてどのように行動すればよいのかを理解し始めます。
チーム・メンバーたちは、共通の目的とゴールを共有し始め、チーム内での衝突も減り始めます。そして共通のゴールに向けてチームが動き始めます。またチーム・メンバーたちは互いに理解するためのコミュニケーションを始めます。
4. 機能期
チーム・メンバーたちは共通のゴールを達成するために互いに協力し始めます。
チーム・メンバーたちはスムーズかつ継続的に協力して仕事を推し進めます。そのために団結を強め、オープンかつ正直に意見を交わし合います。チーム・メンバーたちはお互いを認め合い、それぞれの強みや弱みを理解します。
5. 散会期
プロジェクトの目的が果たされ、ゴールを達成すると、チームが終結します。
この散会期で重要なことは、「チーム・メンバーたちが達成感を味わうことができる」ということです。そうではないとチーム・メンバーたちは自分の役割が本当に完了したのかと疑問を感じたり、または気持ちの整理がつく前に違う仕事(プロジェクト)に就くことに対し不安を持つからです。
(認知・表彰)
チーム・メンバーのプロジェクトへの貢献を公けに認知したり、表彰したりします。
理想と現実
チームはタックマン・モデルに沿って成長していくことを理想としています。 そのためタックマン・モデルを理解しているリーダーは、もしチームが混乱期にあっても慌てることはなく、「今はまだ第2段階だから何も心配することはない。そのうち統一期に向かって成長していくだろう」と安心してしまいがちです。
しかしタックマン・モデルに沿って順調に成長していくチームは実際のプロジェクトではそう多くはありません。混乱期が収束しつつあるところで突然チーム・メンバーの変更があって形成期に逆戻りしてしまったり、または機能期にあり順調にプロジェクトが進んでいたにも関わらず突然プロジェクトの内容が変更されて再び混乱期に戻ってしまうこともあります。
そのような外部要因だけではなく、リーダーシップの失敗やチーム・メンバーの悪影響など、内部要因によってもチームの成長が阻害されることが多々あります。
そのような失敗(と成功)の連続から、プロジェクトのリーダーはリーダーシップを学んでいきます。
チームが成長する条件
チームが成長する条件が揃っていると、チームの成長が早く、成長段階が後戻りするリスクが少なくなります。そのためにもプロジェクトのリーダーは、まずチームが成長する条件を整えるところから始めます。
チーム・メンバーの適正な選択
チームを構成するメンバーはチーム作りの基礎です。そこでプロジェクト発足時に適正なチーム・メンバーを選択することは、プロジェクトのリーダーの極めて重要な役割です。
影響力のあるチーム・メンバー: 共通の意識(コンセンサス)を形成したりや意思決定を促すためにも、チームを前に推し進めることができる影響力のあるメンバーを選びます。
変化への柔軟性があるチーム・メンバー: たとえ矛盾するような事実があったとしても頑固に自分の考えを変えようとしないメンバーがいると、チーム内に強い不満が溜まります。そのため変化に対する柔軟性があり、協調性を保ち、チームを前に推し進めることができるメンバーを選びます。
要求されるスキルがあるチーム・メンバー: プロジェクトの目的を達成するためには様々なスキルが必要となります。 チームを前に推し進めるためにも、 要求されるスキルを持っているチーム・メンバーを選びます。
専門分野を持つチーム・メンバー: プロジェクトが関連する分野の専門家がチームには必要です。専門家は事実に基づく詳細な調査をしたり、広い経験や深い知識を他のメンバーに提供することで、チームを前に推し進めることができます。
チームの成長要因
チーム・メンバーの選択以外にも、チームを前に推し進める上で重要な成功要因をプロジェクト・リーダーは整える必要があります。
明確な目的とゴール: チーム(プロジェクト)は明確な目的とゴールを持ち、それをチーム・メンバー全員で共有しなければなりません。そのためにもプロジェクトの目的とゴールは、プロジェクト憲章などに明記します。
チーム構築のためのトレーニング: チームがどのように機能するのか、または個々のメンバーの役割などをトレーニング等を通し理解させます。
チーム・ミーティング: チーム・メンバーが責任をもって必ずミーティングに参加できるように、ミーティングの日程は早い段階で公表します。
管理職のサポート: プロジェクトが成功するためには、部下(チーム・メンバー)たちがプロジェクトへ参加することを管理職が後押しし、プロジェクトをサポートすることが必須条件です。またチーム・メンバーは管理職から委譲した権限などを理解する必要があります。
チーム内ルールの構築: チーム運営を順調に進めるためにも、チームは自分たちのルールを自ら構築し、メンバーはそれを順守するようにします。
チームが成長するための推進力
チームが成長しプロジェクトが成功する条件を整えたあと、プロジェクトのリーダーはチームに推進力を与え、チームを前に推し進めます。
チームを前に推し進める推進力には以下のようなものがあります。
- メールなど書類による認識・表彰
- 公けの場(ミーティングや社内報など)で感謝を表す
- 管理職、上司、リーダーによる良い評価(フードバックやコメント)
- 能力査定への良い評価 •金銭的な報酬(ボーナスなど)
チームの成長を抑制する力
同時にプロジェクトのリーダーは、チームの成長を抑制する要因を極力排除します。抑制力には以下のようなものがあります。
- プロジェクト・スコープの頻繁な変更
- 曖昧なプロジェクト・スコープの定義
- 曖昧な問題・課題の定義
- リソースの不足
- 達成困難なゴール
- 上司やリーダによるチーム員の成果の横取り
- 貢献しないチーム員がいる
チームが成長する条件を整え、成長の推進力を与え、そして成長の抑制力を排除することでチームは成長し、プロジェクトは成功に近づきます。そのような活動を通して、プロジェクトのリーダーはリーダーシップを学んでいくことができます。