解説: 改善活動の管理と実践(方針管理)

しばしば現場では問題を認識するたびに、それを改善するための改善チームを発足させます。しかしその後は日々の仕事に追われてしまい、せっかく作った改善チームも、動き始めた改善活動も、結局は尻すぼみになって終わってしまうことが多いようです。

現場が自主的に改善活動を行って目的を達成することが一番の理想なのですが、もしそれが上手く行かない時は、改善活動を組織全体で高めていく“方針管理”(改善活動のための管理方式)が必要になってきます。

方針管理の目的

現場主体の改善活動の一番の利点は、問題を最も良く知る担当者が改善に取り組む事で、早く、的確に、そして確実に目的を達成できることだと思います。

しかし一方で現場主体の改善活動には、以下のような問題点もあります。

  • 局所的な改善に終わってしまって組織全体の利益に結びつかない
  • 経営とは切り離された別の活動として扱われ、必要な資源が十分与えられない
  • 目標設定やスケジュール管理が疎かになる

それらを補うためには、すべての改善活動を全社的、かつ長期的なビジョンと目標に合わせて一元管理し、すべての改善活動を企業の利益活動の一環として実施する必要があります。それを行うのが“方針管理”です。

方針管理には、

  • 改善活動に全社的なビジョン(方針)を与え、それを共有することができる
  • 戦略的な改善目標を達成することができる
  • 長期的な改善活動を実施することができる(単年度の計画と予算を超えて)
  • すべての改善活動の方向性をビジョン(方針)に合わせることができる
  • 改善活動のための計画書類を作成し、常に最新の状態に更新することができる
  • 計画書類を使って、経営層とコミュニケーションが図れる
  • 改善活動の遅れを防ぐことができる
  • 大きな改善活動を達成可能な小さな改善活動(アクション)に分割することができる
  • 継続的な改善プロセス(PDCA)を実現することができる

など、さまざまなメリットがあります。

方針管理の手順

定型的な手順に沿いながらいくつかの簡単なツールを用いるだけで、どんな組織にも方針管理を導入することができます。方針管理の手順は以下の通りです。

  1. 全社的な戦略的改善方針(ビジョン)を定める
  2. 長期的な打開策を定める
  3. 今年度の改善目標を設定し、資源(リソース)を割当てる
  4. 今年度の改善目標を全社的に展開する
  5. 改善活動を実施する
  6. 改善活動状況を毎月見直す
  7. 改善目標を毎年見直す
方針管理の手順

方針管理は2つのPDCAループから構成されています。手順1から4は、PDCAのPlanにあたります。手順5はDoに、そして手順6と7はCheckにあたります。手順6から5へのフィードバック(対策)はPDCAのActにあたり、毎月回す小さなPDCAループを作っています。手順7から1へのフィードバック(対策)もPDCAのActにあたり、毎年回す大きなPDCAループを作っています。

次に各手順を一つずつ見ていきましょう。

手順1. 全社的な戦略的改善方針(ビジョン)を定める

戦略的改善方針(ビジョン)の策定にあたっては、まず改善活動を「将来に向けての企業の成長・発展の機会」と捉えるところから始めます。一般的に改善活動は組織内の“内向き”な活動と捉えられがちですが、戦略的改善方針(ビジョン)の策定にあたっては、改善活動を“外向き”な“成長戦略の一つ”として捉えます。

すでに企業が長期的な企業戦略を定めているのであれば、それを戦略的改善方針(ビジョン)として使うことができます。もしそうでなければ以下のツールを使って、戦略的改善方針を定めます。

  • VOC(ボイス・オブ・カスタマー)
  • SWOT分析
  • 経営指標
  • 市場分析
  • バランスト・スコアーカード

以下は、戦略的改善方針(ビジョン)の例です。

“私たちは、お客様に最高のサービスとソリューションを提供する世界的な産業機械メーカーとなる”

戦略的改善方針(ビジョン)が定まったら、それを戦略展開マトリクス(Xマトリクス)の中央に記述します。

戦略展開マトリクス(Xマトリクス) – ビジョン

手順2. 長期的な打開策を定める

次に戦略的改善方針(ビジョン)を実現するために重要となる3年から5年先の打開策と具体的な目標を、以下の視点から設定します。

  • 企業や組織に大きな利益をもたらすこと
  • 戦略的改善方針(ビジョン)に沿っていること
  • 顧客に焦点を当てていること
  • 挑戦的な目標であること
  • 他部署を含めた共通目標であること
  • 将来の成長につながる新しい試みであること
  • 実現方法が既知であること
  • SMARTであること

SMARTとは、

  • S: Specific(明確な)
  • M: Measurable(測定可能な)
  • A: Achievable(達成可能な)
  • R: Relevant/Realistic(現実的な)
  • T: Time-bound(時間設定のある)

を指しています。

以下は、3年から5年先の打開策と具体的な目標を設定の例です。

  • 2021年までに製品の品質を世界レベルにまで引き上げ、Malcolm Baldrige賞を受賞する
  • 2023年までに新製品の開発能力を200%引き上げる
  • 2020年までに既存のデジタル製品で市場シェア50%を獲得する
  • 2024年までに250億円の売り上げを達成する

打開策と具体的な目標が定まったら、それを戦略展開マトリクス(Xマトリクス)の下の欄に記入します。

戦略展開マトリクス (Xマトリクス) – 打開策と目標

手順3. 今年度の改善目標を設定し、資源(リソース)を割当てる

次に、設定した3年から5年先の打開策と目標を達成するための、今年度に実施できる改善目標を設定します。3年から5年先の目標を今年度分の目標に分解するために、次の手順を行います。

  1. 今年度の改善目的を定める
  2. 今年度の改善活動(プロジェクト)を定める
  3. 今年度の改善目標を設定する
  4. 今年度の改善活動(プロジェクト)にリソースを割り当てる

そして、今年度の改善目的はXマトリクスの左側の欄に、改善活動(プロジェクト)はXマトリクスの上側の欄に、改善目標はXマトリクスの中央の欄に、リソースは右側の欄にそれぞれ記入します。そして関連項目が関連する交差点にドットマーク(●)を打っていきます。

戦略展開マトリクス(Xマトリクス)

これで戦略展開マトリクス(Xマトリクス)が完成しました。Xマトリクスは下から順に時計回りで、次のように読んでいきます。

“戦略的改善方針(ビジョン)を達成するために”、

  1. 長期的にどんな打開策を試みるのか
  2. 打開策を達成するために、今年度は何を目標にするのか
  3. 今年度の目標を達成するために、どんな改善活動を試みるのか
  4. 改善活動の具体的な目標は何か、いつごろ達成すべきか
  5. 改善活動の責任者は誰なのか

Xマトリクスに記述した内容を、その目標達成度を毎月チェックするために、戦略展開ボーリング・チャートにも記述しておきます。また目標達成度は計画的に各月に振り分けておきます。

戦略展開ボーリング・チャート

手順4. 今年度の改善目標を全社的に展開する

組織の大きさにも拠りますが、この方針管理を水平的に他部署にも展開したり、垂直的に下部組織にも展開していきます。

下部組織に展開する場合は、上部組織のXマトリックスをさらに分解する形で、下部組織のXマトリクスも同様に作ります。但し下部組織のXマトリクスは、上部組織のXマトリクスを90度半時計方向に回した形になります。下の例では、主に製品開発部の斉藤部長が主に担当する2つのプロジェクトをさらに展開して、6つのサブプロジェクトに分解しています。

戦略展開マトリクスの展開
戦略展開マトリクス(Xマトリクス) – 下部組織

以下は方針管理を水平的かつ垂直的に展開したイメージです。

方針管理の展開

手順5. 改善活動を実施する

それぞれのプロジェクト(またはサブプロジェクト)の詳細内容を、戦略展開アクションプランに書き込みます。後は計画通りに改善活動を実施するだけです。

戦略展開アクション・プラン

手順6. 改善活動状況を毎月見直す

PDCAのチェック機能として、改善活動の状況を毎月見直し、達成度を更新していきます。戦略展開ボーリング・チャートは企業レベルの目標達成度を、戦略展開アクションプランは改善活動レベルの目標達成度を色で記入していきます。

毎月の見直しでは、

  • 毎月規則正しく見直しを行っているか
  • データに基づき正しい対策を行っているか
  • 問題解決のために正しいツールを使っているか
  • データを正しく取得しているか

などの項目についても確認します。

図は、改善活動状況を5月まで見直したボーリング・チャートとアクション・プランです。

改善活動状況の見直し – ボーリング・チャート
改善活動状況の見直し – アクション・プラン

手順7. 改善目標を毎年見直す

そして年度末に改善目標を全社的に見直し、次年度の改善目標を設定します。Xマトリクス、ボーリング・チャート、そしてアクション・プランの更新も同時に行います。

結論:

戦略的改善方針(ビジョン)に基づいて正しく方針管理を行うことで、戦略的な改善目標が達成できるだけではなく、長期的な視点から企業の利益体質の改善を確実に進めることができるでしょう。