前回はパーデュー・ファームズの例を使って、顧客価値マップの作り方を説明しました。今回はまず顧客価値マップについて少し補足し、それから市場で競争優位を築くための手法として品質ギャップ分析を説明します。
顧客価値マップ(補足)
前回のパーデュー・ファームズの例では自社と他社だけを比べましたが、顧客価値マップを使えば分析の対象とする市場セグメントの主な企業や製品をすべてポジショニングすることができます。
下の例は米国のミニバン市場という市場セグメントの顧客価値マップを示したものです。相対的品質と相対的価格に従って7つの自動車会社のミニバンをポジションニングしました(相対的比較がやり易いように、シボレー社のミニバンを基準とした相対比較)。
顧客価値マップ上の位置によって、その製品やサービスが対象とする顧客ターゲットが異なってきます。公平な価値ラインを中心にして、中央付近は「普通」の価値を求める顧客を対象とし、右上付近は「特別(プレミアム)」の価値を求める顧客を対象とし、そして左下付近は「割安(エコノミー)」な価値を求める顧客を対象とすることが分かります。
また公平な価値ラインから離れて右下方向へ行けばいくほど、顧客はより高い価値を知覚します。逆に左上方向に行けばいくほど、顧客はより低い価値を知覚します。
尚、これから説明する品質ギャップ分析では、最も市場知覚品質が高い企業を品質リーダーとして扱います。
品質ギャップ分析テーブル
顧客価値マップを使うことで、顧客が知覚する価値を基準とした自社の市場セグメント内での位置を確認することができました。次はその市場セグメント内でどのようにして競争優位性を高めていくのかを考えます。その手助けとなるのが品質ギャップ分析です。
品質ギャップ分析は品質プロファイルとほぼ同じようなテーブルを用います(下図)。
品質ギャップ分析の主な目的は次のようなものです。
- 自社の市場におけるポジションを評価する
- 自社の市場における品質問題を把握する
- 自社の市場における競争優位なポジションをとるためのアクション(行動)を示唆する
マイケル・ポーターの分類によれば、ある市場セグメント内の主な企業は次の4つのタイプに分けられます。
- マーケット・リーダー
- マーケット・チャレンジャー
- マーケット・フォロアー
- マーケット・ニッチャー
顧客価値マップと合わせて品質ギャップ分析を行うことで、、マーケット・リーダー企業はどの品質属性が優れているのか、マーケット・チャレンジャー企業はどの品質属性で挑戦しているのかなど、タイプの違う企業を品質属性の側面から評価できるようになります。
また品質ギャップ分析は、自社が目指す企業タイプになるための必要なアクション(行動)を示唆してくれます。例えば「コストリーダー戦略」をとるのか、または特定の品質属性に注力し「差別化戦略」をとるのかなど。
簡易版狩野モデル
ところで、品質ギャップ分析は簡易版の狩野モデルを使って、各品質属性の重み付けを考えます。狩野モデルそのものについてはインターネット上にたくさんの解説があるので、ここでは説明しません。また当ブログでも狩野モデルについて少し違った視点から書いたことがありますので、良ければそちらも参考にして下さい。
品質ギャップ分析で使う狩野モデルは簡易版で、品質属性のライフサイクルステージ(段階)を把握し、それに応じた品質属性の重み付けをするために使います。ライフサイクルステージには次の7段階があります。
- 潜在的な品質段階:
潜在的な品質属性は隠れていて顧客はまだその品質属性を知覚していません。企業は潜在的な品質属性を試みで顧客に提供することで、顧客がそのアイデアを欲するかどうかを試すことができます。潜在的な品質属性には重み付けは必要ないかもしれません。 - 欲求的な品質段階:
欲求的な品質属性は顧客には知られているものの、まだどの企業も提供していない品質属性です。企業がその品質属性を提供し始め、顧客がその品質属性に満足し始めると、欲求的な品質属性はユニークな品質属性に変わります。欲求的な品質属性の重み付けはそれほど多くは必要ないかもしれません。 - ユニークな品質段階:
ユニークな品質属性は、一つの企業だけが提供している品質属性です。もし顧客がこのユニークな品質属性に満足しているのであれば、この品質属性には大きな重み付けをします。 - 品質と満足度の同調段階:
品質と満足度が同調する品質属性は、もし一つの企業だけが抜き出ている場合には大きな重み付けをします。多くの企業がこの品質属性を十分満たしてくると、重要な品質属性に変わります。 - 重要な品質段階:
重要な品質属性は、競争力を表します。一つの市場セグメントだけで重要な品質属性はニッチな品質属性です。多くの市場セグメントで重要な品質属性はパワーのある品質属性です。 - 色あせる品質段階:
色あせる品質属性は市場での競争力に影響を与えなくなりつつある品質属性です。この品質属性には重み付けを減らしていくべきでしょう。 - 基本的な品質段階:
基本的な品質属性はすべての企業が提供しており、顧客満足度も同じである様な品質属性です。この品質属性の重みは少なくするべきでしょう。
それぞれの品質属性ごとに評価したライフサイクルステージ(段階)と重み付けは、品質ギャップ分析のテーブルに記述します。
品質ギャップ分析の手順
品質ギャップ分析テーブルの記入方法を手順を追って説明します。
市場ポジション
- 市場セグメントから分析の対象とする主要な競合他社を選んで、その企業名をテーブルに記入します(品質ギャップ分析テーブルも同様)
- それそれの企業の市場シェアをテーブルに記入します(市場リーダー、チャレンジャー、フォロアー、ニッチャーの判断材料として)
- 自社が提供する価格を100として、それぞれの企業が提供する価値の相対的な価格をテーブルに記入します(どの企業がコストリーダーシップ戦略をとっているのか)
- 自社が提供する価格を100として、もし情報が入手できるのであれば、それぞれの企業の相対的な固定費や変動費をテーブルに記入します(利益率等の分析材料として)
- 自社の技術力と比較して、それぞれの企業の相対的な技術力を評価します(同等、優れている、劣っている、など)
品質と価格の重み
市場ポジションを記入をすることで、対象とする市場セグメントが価格に敏感な市場なのか、それとも技術力(品質力)重視の市場なのかが分かってきます。もし価格に敏感な市場セグメントなら価格の重み付けを高く評価し、逆に技術力(品質力)重視の市場なら品質の重み付けを高く評価します。
品質ギャップ分析
- 市場セグメントを分析する上で重要となる品質属性を記入します
- 簡易版狩野モデルを使って、それぞれの品質属性のライフサイクルステージ(段階)を評価します
- 品質属性のライフサイクルステージ(段階)を考慮しながら、それぞれの品質属性の重要度(重み)を評価します(合計が100%になるように)
- それぞれの企業の、それぞれの品質属性について、パフォーマンス・スコアを相対的に1から10で評価します(自社を5とし、プラス/マイナス値で評価してもよい)
- それぞれの品質属性について、自社のパフォーマンス・スコアと重要度を掛け合わせて、自社の重みスコアを計算します
- 競合他社の中から品質リーダー企業(顧客価値マップ上で最も市場知覚品質が高い企業)を選び、品質リーダー企業のパフォーマンス・スコアと重要度を掛け合わせて、品質リーダー企業の重みスコアを計算します(例ではC社)
- 競合他社の中から市場シャアリーダー企業(市場シャア一番高い企業)を選び、市場シャアリーダー企業のパフォーマンス・スコアと重要度を掛け合わせて、市場シャアリーダー企業の重みスコアを計算します(例ではA社)
- 自社の重みスコアから品質リーダー企業の重みを引いて、品質ギャップを計算します
品質ギャップ分析テーブルの記入を終えたら次のような内容を社内で議論し、市場で生き残るための戦略を立てます。
- 購買に繋がる品質属性は何か
- 購買に繋がる品質と価格の関係はどのようになっているか
- 顧客の視点から、どの品質属性を改善すべきか
- 市場シェアを高めるためにどのようなアクションを行うべきか
- 最適な市場のセグメンテーションはどこにあるのか
参考文献: Managing Customer Value (by Bradley Gale)
ISBN-10: 0029110459
ISBN-13: 978-0029110454