最近よくケイデンス(cadence: 韻律、リズム、抑揚)という言葉をリーンシックスシグマの認定プロジェクトの中で使います。どんなに業務が忙しくても、毎日三十分でも一時間でも、限られた時間を認定プロジェクトに当てたり、仮に何も進捗が無かったとしても、プロジェクト状況を報告するためのミーティングを毎週欠かさず持つなど、認定プロジェクトを完了させるためは”リズム”が何よりも大事だからです。
リーンシックスシグマのベルト認定を得るには、僕の職場ではトレーニングだけではなく、認定プロジェクトを完了させなくてはなりません。しかし最近、新製品リリース前に突発的な問題が起こり、殆どの部員がその対応に駆り出されてしまいました。もちろんグリーンベルトやブラックベルトの認定を目指して頑張っていた部員達も例外ではありません。今までやっていた仕事を中断してトラブル対応に当たっているため、当然現在進行中の認定プロジェクトにも大きな支障がでてきました。
僕は今二十個以上のリーンシックスシグマ認定プロジェクトを管理していますが、その半分以上のプロジェクトが突然止まってしまいました。”ケイデンス”という言葉を最近多く口にするようになった理由はそのためです。一旦プロジェクトが止まってしまうと、再びリズムを取り戻してプロジェクトを再開させるのは至難の業なので、そうさせないためにも「ケイデンスが大事だ」と言い回っています。
これまで多くの中断されたプロジェクトを見てきましたが、再開されたものは殆どありません。中断されたプロジェクトの担当者はひっそりと静かにリーンシックスシグマの認定を諦めてしまうからです。だからケイデンス=リズムよくプロジェクトを継続することが、認定プロジェクトを完了させるための鍵なのです。
1. 大きなケイデンス
音楽にはクラッシックやジャズといったいくつかのジャンルがあるように、リーンシックスシグマにもいくつかのジャンルがあります。狭義のリーンシックスシグマには DMAIC というリズムがあり、DfSS(Design for Six Sigma)には DMADV、DMADOV、RADIOV、CDOV、I2DOV など様々なリズムがあります。リーンはそのリズムも早く PDCA の繰り返しになります。
アルファベットのそれぞれの文字がプロジェクトの段階(フェーズ)を示していて、例えば DMAIC の場合、Define(顧客要求とプロジェクトの定義)、Measure(顧客要求や現状の理解や測定)、Analyze(顧客要求や現状の分析)、Improve(改善策ー新しいプロセスーの実施)、そして Control(新しいプロセスの管理運営)となります。それぞれの段階が大きなケイデンスとなっていて、認定プロジェクトの場合、それぞれの段階がおおよそ一ヶ月から二ヶ月ほどかかります(プロジェクトの大きさや種類、担当者のやる気具合でずいぶんと差があります)。
2. 中くらいのケイデンス
DMAIC のそれぞれの段階にはいくつもの解決しなくてはならない問題があります。そして、それぞれの問題を解決するために最適なツールやテンプレートを順序良く使って行きます。例えば Define(顧客要求とプロジェクトの定義)段階では、以下のような問題を解決するために、異なったツールやテンプレートを使っていきます。
- プロジェクトが与える影響は何か(コスト分析、ビジネス・インパクト分析)
- 利害関係者は誰か(利害関係者分析、RASCIマトリックス)
- プロジェクトの概要はどのようなものか(SIPOC分析)
- 顧客の要求は何か(狩野モデル、VOC、QFD分析)
ツール類の繋がりを考えながら一つの生成物(ツールやテンプレート)を完成させるのに、大体一週間から二週間ほどかかります(もちろんプロジェクトの大きさや種類、担当者のやる気具合でずいぶんと差があります)。そして認定プロジェクト担当者と一緒に一週間に一度定期的なミーティングを持ち、疑問点を解決したり、生成物の見直しを行っています。
この一週間から二週間というリズムが中くらいのケイデンスとなっています。
3. 小さなケイデンス
認定を目指して頑張るプロジェクト担当者は、毎日少なくとも三十分や一時間といった決まった時間をリーンシックスシグマに当てています。その中で生まれた疑問や質問はすぐに僕に聞く事によって、自ら小さなケイデンスを作っています。
ケイデンスが小さければ小さいほどフィードバックが早くなり、やり直しの範囲が狭くなるせいか、結果としてプロジェクトの負担が減り、早く完了できるようです。
大きなケイデンスはリーンシックスシグマのフレームワークが与えてくれます。中くらいのケイデンスは僕と一緒に進められます。問題は小さなケイデンスを担当者がやる気をもって守れるかどうかです。ベルト認定を受けられるかどうかは、この小さなケイデンスを持てるかどうかに掛かっているといっても過言ではないと思います。