リーンシックスシグマは聞いたことがあっても、DFSS(Design for Six Sigma)はあまり耳慣れない言葉かもしれません。日本ではもちろん、米国でさえ、DFSS の知名度は、リーンやシックスシグマに比べてそれほど高いものではありません。確かに知名度の面では、リーンシックスシグマに遥かに及びませんが、それでも DFSS はリーンシックスシグマの一環として、多くの企業や多くのプロジェクトで用いられている、とても強力なフレームワークです。
1. DFSS とは何か
仕事でトラブルが発生した時、「始めからちゃんと考えていれば、こんな事が起こるということは、前もって分かっていたはずだろう」と、口論するようなことがありませんか。一言で言えば、DFSS は、このようなトラブルを未然に防ぐためのフレームワークです。
リーンシックスシグマが「既存」の製品やプロセスの問題(品質や費用など)を解決するためのフレームワークであるのに対し、DFSS は「新規」の製品やプロセスを設計する際に、起こりうる問題を「未然」に防ぐためのフレームワークです。
2. なぜ DFSS が必要なのか(リーンシックスシグマの限界)
新規の製品やプロセス(サービス)を設計するための工程が、品質や費用にどのように影響するのか、その割合を見てみると、大体次のようになります。
- 設計方針(コンセプト)の決定 – 50%
- 設計 – 20%
- テスト – 10%
- 製品化 – 10%
- 製造 – 10 %
つまり、製品やサービスの品質や費用の約七割から八割は、すでに設計やテスト段階で決まってしまうのです。新製品が製造され始めた後に、または新しいサービスが開始された後に、いくらリーンシックスシグマが発生した問題を解決しようとしても、それでは遅すぎるし、その対応も限定的なものになってしまいます。しばしば Too Late Too Small などという言葉を政治家が使いますが、まさにそれと同じことです。
同じように、企業の費用構成と、製品やサービスの最終総費用(製造や品質保証など、すべてを含む)の関係を見てみると、大体次のようになります。
- 設計費用 5% – 最終総費用に占める割合 – 70%
- 材料 50% – 最終総費用に占める割合 – 20%
- 労働費用 5% – 最終総費用に占める割合 – 5%
- 管理費用 30% – 最終総費用に占める割合 – 5%
リーンシックスシグマは既存の製品やプロセス(サービス)が対象なので、問題解決の範囲は、材料や労働費用、管理費用などに限定されます。確かに企業の費用構成で見れば 85% を占めますが、製品やサービスで見た時はたった 30% を占めるに過ぎません。
つまり顧客の目からすれば、企業内の問題よりも、直接手にする製品や、経験するサービスの品質の方が大切なのにも関わらず、リーンシックスシグマはたった 30% しか顧客の要望に応えられないのです。
リーンシックスシグマの限界はここにあります。
単純な結論として浮かび上がってくるのが、「ちゃんと設計すれば良いだけの話でしょ?」ということです。その通りです。言い換えれば、リーンシックスシグマが必要となる状況を未然に防ぐための、ちゃんとした設計を手助けするフレームワークが DFSS(Design for Six Sigma)なのです。
医学に例えれば、リーンシックスシグマが治療医学であるのに対し、DFSS は予防医学と言えるかもしれません。
次回は少し DFSS の詳細について、書いてみようと思います。