ビジネス関連の雑誌やウェブサイトを見ていると、リーダーシップとコミュニケーションに関する記事が多いことに気が付きます。記事が多いということは、つまり(需要と供給の関係から考えれば)、ビジネスにおいてリーダーシップやコミュニケーションがもっと必要にも関わらず、まだまだそれが十分ではないということなのでしょう。
コミュニケーションに限って考えれば、ほとんど全ての企業が例外なくこの問題を抱えているように見えます。これだけ電子ツールがあふれかえっている現代でもコミュニケーションが問題になるというのはなんだか不思議なような気もしますが、確かに僕の周りでもこの手の問題がよく語られています。
解決策として
- 仕事をもっと早く進めるために、情報をもっと集める
- ミーティングに人をもっと集めて、情報をもっと共有する
- 方針や意思決定をもっと文書化して、共有をもっと進める
- メモをもっと多くとって、メールでもっと送る
などがよく思われがちですが、はたしてこれらの”もっと”を進めることでコミュニケーションが良くなるのでしょうか。答えはどうやら違うようです。コミュニケーションを良くするためには、以下のステップが必要となります。
- コミュニケーションの必要性を減らす
- コミュニケーションの質を高める
- コミュニケーションのスピードを速める
そして最後に
- コミュニケーションの量を増やす
今回は、コミュニケーションの必要性を減らすということを中心に書いてみようと思います。
1. コミュニケーションの必要性を減らす
意外な事かもしれませんが、コミュニケーションを良くするために多くの企業でまず必要なことは、実はコミュニケーションの必要性を減らすことです。実際、コミュニケーションの良い会社と悪い会社を比べても、コミュニケーションの量にはそれほど違いがありません。むしろコミュニケーションの悪い会社の方が、量は多いくらいです。
良いコミュニケーションとは、正しい判断を下すために必要な利用価値の高い情報をやり取りすることです。量は問題ではありません。
コミュニケーションの必要性を減らすためには、
- 明確で機能的な組織編成
- 明確な役割分担
- 積極的に参加するチームメンバー
が必要になります。例えば何かの機械やソフトウェアを複数のチームで設計することを思い浮かべてみて下さい。それぞれのチームが設計を担当する機能やチームの役割が明確で、機能間のインターフェースが定まっていれば、チームは割り当てられた機能を設計し、インターフェースを通じてその機能を提供するだけです。情報交換の必要は減ります。
一方チームが担当する機能も役割も明確でなく、機能間のインターフェースも定まっていない場合、多くのチームメンバーは多くのミーティングや交渉を通じて、一つずつ機能を設計していかなければなりません。コミュニケーションの量が多いにも関わらず、質が悪いために、意思決定の遅れや、判断ミスが増えます。
これは一般的な組織でも同じではないでしょうか。コミュニケーションが上手くいっていない企業に限って、組織が曖昧でメンバーの役割分担もはっきりしていません。
しかし明確な組織を持ち、メンバーの役割分担がはっきりしている企業でも、そのインターフェースを理解して積極的に情報を提供するチームメンバーがいないと、コミュニケーションは成り立ちません。
組織やメンバーの役割を明確にし、情報のインターフェースをはっきりさせ、それをメンバー全員に見えるような形するツールとして SIPOC が利用できます。
2. SIPOC とコミュニケーション
まず SIPOC のP(プロセス)にはメンバーの役割や仕事の範囲、手順などを記します。そしてその役割や仕事が生成するすべての情報を O(アウトプット)に記します。それぞれの社員が職務記述書に従って仕事をしていれば、メンバーの職務記述書を基にプロセス(P)欄とアウトプット(O)欄を埋めることができると思います。
生成された情報(アウトプット)には必ずそれを必要とする人や組織が必ずあるはずです。次にそれぞれの情報を必要とする人や組織の名前でカスタマー(C)欄を埋めて下さい。もし誰もいなければ、その情報を作り出す仕事は必要がないということなので、削ってしまいましょう、お金と時間の無駄です。
新しい情報を生み出す仕事にはインプット(I)が必要です。仕事を進める上で必要な情報をすべてインプット(I)欄に書き出します。そしてそれを提供してくれる人や組織をサプライヤー(S)欄に書き出します。
これでメンバーの機能とインターフェースを SIPOC を使って定義することができました。極端な言い方かもしれませんが、そのメンバーが必要とする情報や、提供する情報は、全て SIPOC が記すものだけです。これに従えば不必要ななメールや会議など、無駄なコミュニケーションを極力減らすことができます。
日本的な企業ほどメンバーの役割分担が不明瞭なため、SIPOC を使ってコミュニケーションの必要性を減らすのはそれほど簡単なことではありませんが、SIPOC の有効な使い方の一つの事例として理解して頂けると思います。
3. 次の段階
コミュニケーションの必要性が減らすことができた後は、コミュニケーションの質を高めて行きます。どの媒体が最も適しているのか、そのコミュニケーションの頻度はどのくらいか、などということを顧慮してコミュニケーションの質を高めて行きます。それについてはいつか書いてみたいと思います。