モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合

今回は前回に引き続き、ドラマ「陸王」を例にとって話しを進めたいと思います。

前回は、MinitabのDOE(実験計画法)機能を使って、陸王のソールの硬さ(硬度)を決める数式を導きました。そして今回はDOE(実験計画法)で導いた数式を用いて、入力データである繭の大きさ、茹で温度、茹で時間のバラツキが、出力データであるシルクレイの硬度のバラツキにどのように影響するのかをモンテカルロ・シミュレーションで調べてみたいと思います。

DOE(実験計画法): こはぜ屋の場合
DOE(実験計画法): こはぜ屋の場合

はじめにモンテカルロ・シミュレーションを説明する前に、普段設計の現場で一般に行われている分析方法について説明します。

設計の現場ではしばしば入力パラメータのワーストケース(最悪値)を使って実験または出力パラメータの計算し、出力パラメータが仕様の範囲内に収まっていることを確認します。これを決定論的分析方法と言います。

決定論的分析方法の問題点は、入力パラータ値のバラツキを考慮に入れないことです。実際は入力パラメータの分布が最悪値を超えていることがあります。例えば繭の茹で時間が仕様では最小値(-3σ)20分、最大値(3σ)100分、中央値57.85分で正規分布をとる場合、実際の値は少ないながらも19分や101分を超えている場合が確率的には存在します。つまりバラツキが最小値や最大値を超えている確率があり、そのバラツキを決定論的分析方法は考慮に入れていません。これは不慮の不具合やコストのかかる設計のやり直しを招き、顧客の不満につながります。

モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合
モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合

一方、入力パラメータの範囲を確率分布で考えた場合、出力パラータも確率分布を採ります。これを確率論的解析方法と言います。例えばもし入力パラメータである繭の茹で時間が正規分布を取り、バラツキ(-3σ/3σ)が20分から100分を取る場合、その分布に応じてシルクレイの硬度も確率分布を取ります。そしてこの出力 であるシルクレイの硬度が設計値の範囲を逸脱する確率が問題となります。この設計値から逸脱する確率を分析するのに、モンテカルロシミュレーションが非常に役に立ちます。

モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合
モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合

モンテカルロ・シミュレーションとは

モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは

モンテカルロ・シミュレーションは確率とランダムイベントが大々的に使われるギャンブルの世界を起源としています。このテクニックは第二次世界大戦中に原子力爆弾を開発する際に用いられました。また第二次世界大戦後は、ビンゴ・ゲームから核分裂の予測まで幅広く使われるようになりました。

モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは

モンテカルロ・シミュレーションでは演算の試行回数を予め決めます。今はソフトウェアを使ってシミュレーションを行うことできるので、1万回や100万回の演算も簡単に行えます。

入力パラメータの分布タイプに従った乱数を試行回数分生成し、その生成した変数を演算式に与え、演算を試行回数行います。そして試行回数分演算した結果(応答値-サンプル値)を確率分布としてヒストグラムで表現したり、平均値や標準偏差などを計算します。

そして応答値が仕様の範囲(信頼区間)に入っている確率と、仕様の範囲(信頼区間)に入っていない確率(不適合の確率)を求めます。

入力パラメータの分布が分かっている場合、不適合の確率を設計段階で把握できるため、設計段階で入力パラメータの分布を調整するなどして、製品価格の最適化や品質の向上に繋げることができます。

モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは

例えばシルクレイの場合、入力パラメータである繭の大きさが10mmから20mmの範囲(6σ)でランダム変数(正規分布)をとり、同様に繭の茹で温度が80度から100度、繭の茹で時間が20分から100分の間でそれぞれ6σでランダム変数(正規分布)を取るとします。そのランダム変数である入力パラメータを実験計画法で導いた数値モデルに与え、試行回数分出力を計算します。

モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは

例えば、第一回目の試行では、繭の大きさは10mm、繭の茹で温度が86度、茹で時間が95分というランダム変数生成器が生成した値を数値モデルに与え、その演算結果つまりシルクレイの硬度を保存します。次の試行では繭の大きさは13mm、繭の茹で温度が92度、茹で時間が22分というランダム変数生成器が生成した値を同じく数値モデルに与え、その演算結果を保存します。

モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは

同様の演算を試行回数分繰り返し、出力データをヒストグラムとしてプロットすることができ、入力パラメータの分布に対する出力パラメータ分布が分かります。この場合シルクレイの硬度の分布がプロットできます。その値が最小値や最大値を超える確率を不適合の確率といい、不適合の確率を最小限にするために、入力パラメータ値を管理・調整します。

こはぜ屋の場合

モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合
モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合

シルクレイの場合、繭の大きさが標準偏差ー3σが10mm、+3σが20mmで正規分布をとり、茹で温度が準偏差ー3σが80度、+3σが100度で正規分布をとり、茹で時間が準偏差ー3σ(が20分、+3σが100分で正規分布を取るとき、硬度が仕様の200から300を逸脱する確率は43.2%にもなります。

モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合
モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合

そこで品質管理を行い、茹で時間のバラツキを+/-13分から+/-1分に(標準偏差を0.33分)狭めたとします。すると不適合率を8.8%まで下げることができます。

モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合
モンテカルロシミュレーション:こはぜ屋の場合

今回はモンテカルロシミュレーションをQuantum XLというExcelのアドインソフトウェアを使いましたが、モンテカルロシミュレーションはエクセルのランダム変数を使えば簡単に行えます。この例では繭の大きさ、茹で時間、茹で温度の値をそれぞれ2000個、ランダム変数で生成し、その値をモデル式に当てはめ、2000回演算したものをヒストグラムで表示しました。そして硬度が200以下300以上の値をカウントすることで、不適合率を簡単に計算できます。

DOE(実験計画法): こはぜ屋の場合
DOE(実験計画法): こはぜ屋の場合

結論としてモンテカルロ・シミュレーションを行い、繭の茹で時間のバラツキをを13分20秒から20秒に管理することで、シルクレイの硬度を平均250、標準偏差29に収めることができました(もとの標準偏差は64)またこの設定範囲の場合、不適合率を8.8%にまで落とせることも分かりました(もとの不適合率は43.2%)。さらに品質管理(繭の大きさ)と製造管理(茹で温度、茹で時間)を高めることで不適合率を最低限に抑えることができることが分かりました。

モデル式と入力パラメータのバラツキ(分布)が分かれば、モンテカルロシミュレーションは簡単です。ぜひ一度お試しください。