先日、ある集まりでDOE(実験計画法)に誰にでも分かる様に説明してもらいたいという依頼を受けたので、TBSのドラマ陸王を例に用いて説明しました。このブログでも一度「陸王」とDOEについて記事を載せていますが、再び掲載したいと思います。似たような内容になりますが、お許しください。
はじめに、皆さんはTBSのドラマ「陸王」についてご存じでしょうか?『陸王』(りくおう)は、池井戸潤の小説。『小説すばる』(集英社)に2013年7月号から2015年4月号まで連載され、2016年7月10日に集英社から単行本が刊行された小説です。それを役所広司の主演で2017年10月期にTBS系にてテレビドラマ化されました。
ストーリーは、埼玉県行田市にある足袋製造会社「こはぜ屋」-創業から100年の歴史をもつ老舗 - の業績が低迷し資金繰りに悩んでいたところ、四代目社長の宮沢紘一がこれまでの足袋製造の技術力を生かし、「裸足感覚」を取り入れたランニングシューズの開発を思いつき、社内にプロジェクトチームを立ち上げという物語です。
会社の存続をかけて異業種に参入した「こはぜ屋」でしたが、資金難、人材不足、大手スポーツメーカーの嫌がらせや思わぬトラブルなど様々な試練に直面します。宮沢たちは坂本や飯山の協力や、有村や村野の助言を受けて、試行錯誤を続けながらランニングシューズの開発に邁進します。
その後、特殊素材「シルクレイ」を足袋型の新しいシューズに応用できることに気づきます。そこで「シルクレイ」の開発者で元社長の飯山晴之の協力のもと、「シルクレイ」を使った新しいシューズ「陸王」の開発に着手します。
しかし目標の硬さのソールが開発するために苦労し、何日も何回も試行錯誤を繰り返す結果、「こはぜ屋」は破産の危機に直面します。
最終的に飯山と大地はシルクレイの開発に成功し、めでたく「陸王」というランニングシューズは製品化され、こはぜ屋は復活し、大成功を納めます。
陸王はドラマなので、シルクレイの開発に成功するまでの技術的・経営的な悪戦苦闘が見ものなのですが、もしDOE(実験計画法)を飯山や大地が知っていたら、こんなに苦労して時間とお金をかけなくても目的のシルクレイを簡単に作ることができたのでないかと思います。
そこで今回もこはぜ屋の陸王(シルクレイ)を例にとってDOE(実験計画法)について簡単に説明したいと思います。
飯山や大地が行っていた開発手法は、無作為試験法と呼ばれるもので、無作為に変数の値を変えてその効果を評価します。無作為にパラメータを変えて実験をおこなうので、時間やコストがかかり、因子の統計的な分析ができないだけでなく再現性にも欠けます。
結局、飯山は多くの資金と時間を費やし、こはぜ屋を倒産の危機に晒します。社長の宮澤の理解と情熱がなければこのシルクレイのプロジェクトは終わっていたでしょう。
はらはらドキドキのドラマなので、それはそれで楽しいのですが、ドラマを見ていて思ったのが、なぜDOE(実験計画法)を使わなかったのか?ということでした。
DOE(実験計画法)は
- 1.時間もリソースも限られているときに、最も効率の良い方法で対象を理解したい
- 2.そして
- 1.どの入力パラメータが出力パラメータに大きな影響を与えているのか?
- 2.出力パラメータは、入力パラメータ単体よりも、入力パラメータの組み合わせの方に影響を受けるのか?
という疑問にこたえたいときに、最も少ない労力で、最大限の情報を得ることできます。そしてDOEの最終結果である数式モデルをつかえば最適化もできるし、またモンテカルロシミュレーションを行えばバラつきの検証もできます。
DOE(実験計画法)の概要
DOE(実験計画法)は数学者のロナルド・フィッシャーによって1910年代後半に開発された手法です。フィッシャーは自分の農園で作物を作る際に、土や日光、水などの条件が作物の生育にどのように影響するのかということを調べるためにこの手法を開発したと言われています。
フィッシャーは入力パラメータ(土や日光、水など)の組み合わせが作物の生育に及ぼす影響を統計的に調べました。そして一度に一つの条件を変える方法に比べて効率的でより多くの情報を得ることができました。
広義のDOEの出力(データセット)は、入力パラメータ(input factors – X’s)と出力結果 (Y’s)の組み合わせを使って回帰分析を行った結果の数値モデルです。
また回帰分析を含めない狭義のDOEの目的は、数値モデルを作るうえで入力パラメータの重要なファクター(Critical Factors)を見つけることです。
数値モデルは現状のシステムを凡そ表わすことができるため、その数値モデルを使って現状のシステムを分析(例えばモンテカルロシミュレーションなど)したり、最適化することができるようになります。
DOE(実験計画法): こはぜ屋の場合
DOEには2つのステージがあります。スクリーニングDOEとモデリングDOEです。スクリーニングDOEは多くの入力パラメータから最も出力パラメータに影響を及ぼすパラメータを選択するために使います。またモデリングDOEは選択した入力パラメータを使ったより精度の高いモデルを生成します。
ここでは統計解析ソフトウェアとして一般に多く利用されているMinitabをつかって、DOE(実験計画法)を説明したいと思います。
まずMinitabのメニューからスクリーニングDOEを選択し、3つの入力パラメータを選択します。ダイアログボックスをつかって、繭の大きさ、繭の温度、そして茹で時間の上限時と下限値を設定します。
するとMinitabは13回の入力パラメータの組み合わせを生成してくれます。このMinitabが生成した入力パラメータの組み合わせを一回ずつシルクレイ製造装置に設定し、シルクレイを作り、その結果(硬度)を測り、Minitabの記録します。これを13回繰り返します。最終的には13回分の入力パラメータと出力データのデータセットが完成します。このデータセットをつくるまでが狭義のDOE(実験計画法)です。
広義のDOE(実験計画法)ではその出力データの分析を行います。まずMinitabの出力データであるP-Valueに注目します。P-Valueの値が0.05以下だと、その変数は数値モデルに有義だと判断します。ここではすべての変数のP-Valueの値が0.05以下なので、すべての変数を採用し、Minitabが生成した回帰分析の結果(数式モデル)を採用します。(もしP-Valueの値が0.05以上の場合は、その変数を取り除いて、回帰分析を繰り返します。)
またこのスクリーニングDOEの結果がとても良かった(すべての変数のP-Valueの値が0.05以下)のでこの数式モデルを採用し、モデリングDOEの必要性は無いようなので、ここでDOEをやめておきます。
次はこのスクリーニングDOEの結果(数式モデル)をつかって、最適化を行います。
MinitabのResponse Optimizer (応答最適化)の機能を使って、出力データ(硬度)が250になる入力データの組み合わせを見つけます。その結果大きさは15、茹で温度は90度、茹で時間は57.85分の組み合わせで硬度が250になることが分かります。
またMinitabのResponse Optimizer (応答最適化)の機能を使えば、入力条件の変化にも対応できます。例えば繭の大きさが10㎜の場合は茹で温度90度で茹で時間が86.65分で硬度250のシルクレイを作れま、また繭の大きさが20㎜の場合は、茹で温度が80度で茹で時間が49.10分で硬度250のシルクレイを作れるという具合です。入力データの条件が変わっても、それに応じた最適な組み合わせを教えてくれます。
結論は、DOE(実験計画法))を使うことで、たった13回の実験で、目的の硬さのシルクレイをつくるための入力条件と数式モデルを見つけることができました。
そしてシルクレイの硬度の数式モデルができたので、あとはそのモデルを使って入力パラメータを変更するだけで希望する硬度のシルクレイをつくることができるようになりました。
また、数式モデルを使ってモンテカルロシミュレーションを行えば、入力パラメータのバラツキがシルクレイの硬度のバラツキにどのように影響するのかが検証できるようになりました。
そこで次回はDOEで生成した数式モデルを使って、モンテカルロシミュレーションを実施したいと思います。